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才能の真偽



しずるは明らかに動揺していた。自分の行動に後悔をし、失敗したと直感した。
埼玉県鳥見市にあるチェーン展開する喫茶店に来ていた。午後の二時を過ぎた所だ。
店内は明るいか薄暗いかで言えば後者にあたる雰囲気で、喫煙席と
禁煙席が半分に分かれている。だがその区別に仕切りがある訳ではない為、
非喫煙者及び禁煙者に被害が及んでないとは言い切れない。しずるは喫煙をしない女性だ。
店に入ると、漂うその不純な空気にすぐ眉をしかめた。だが、その数分後
そんな些細な事を一瞬で忘れてしまう。いや、「大変な問題点」が
一気に「些細な事」までに度合いが下がったという方が言い方としては正しい。
それ程までに、目の前に現れた男の、想定外の怪しさに動揺していた。
一年前、夫・光修の死からある期間の間、当然の事ながら様々な人間が渋谷区にある自宅へ
訪れた。まずは光修の死の詳細を調べる為に警察が少しの期間出入りし、
その後マスコミ、出版社の人間などが夫を自殺によって失った未亡人に
慰めの言葉をかけに押し寄せた。それだけなら良かったが、有名な作家には
その活躍をよく思わないアンチも存在し、インターネットでは様々な
「自殺」に隠された陰謀を面白おかしく唱える人間が後を立たなかった。
それらの矛先はあろう事か、妻であるしずるにまで向けられ、ある事無い事
好き勝手に語られ賑わいを見せていた。
「あなた…私が至らなかったのですか?妻として、支えが足りなかったのですか?」
しずるはパソコンの前で肩を震わせた。仕事以外、身の周りの事に
関心を示さない夫を一生懸命労い、尽くしていたつもりだった。
頭がぼーっとする。胸が苦しく、明日の事が考えられない。その時、目の前の
亡き夫の形見であるパソコンが彼女に声をかけてくれた気がした。私に何か出来る事はないか。
夫からの優しい言葉に思える。でもそれは、受け取り側によって著しく色を変えた。
「私もあなたの元に行きたい…この世に何が残っていると言うの」
悪魔が耳打ちをする。天使は姿さえ現さなかった。しずるの右手は
何かに乗り移られたように、気分とは真逆にせわしなくキーを叩く。
《自殺 志願者 掲示板》と、検索サイトに入力していた。自ら命を絶つ為に同志を求めて
自殺志願者の集うサイトや掲示板を探す。検索結果を目にし、安楽への扉を開いた。
…はずであったのに。今現在の状況は、どうだろうか。自分は喫茶店にいる。
目の前に現れた男に心底疑心暗鬼で怯えている。
「初めまして、あなたが霧宮しずるさんですね。失礼します」
そう言って、帽子を一度取り挨拶すると、しずるの座る席へ腰掛ける。
身長180はあると思われるその男は、近づいてきた店員にコーヒーを注文すると
名刺を渡してきた。目をやると「探偵事務所メビウス代表 レイジ・ガーネットロウズ」
と書いてあった。全身黒スーツに白髪で、しずるから見て向かって
左側だけ目が隠れる程長い前髪と、彫りの深い顔立ちに青い目が
日本人では無い事を語っている。精神的に不安定なしずるは、
この時初めて自分の中に外国人差別を感じた。この外見で探偵という肩書き、
もはや怪しい人物以外になんと形容すればいいのか。
事実、光修が死後、遺産目当てでしずるに言い寄ってくる輩も何人かいた。
光修の遺産もさる事ながらしずるも時々雑誌などで話題になる位の
美貌の持ち主であったから、金と色欲に支配された雄が容姿端麗な未亡人を手に入れようと
歯の浮く様な言葉をかけてくる事は多かった。この男もそうなのではないか、
そんな不安が心から離れない。変な世界に足を踏み入れてしまったのかもしれない。
そう思った。そのしずるの不安は、目の前の探偵にもありありと伝わったらしく
男は右手で後頭部をさすりながらぎこちない笑いをしずるに向ける。
「都内からこんな所まで足を運んで頂いて有難う御座います。
きっと外見ほど怪しい人間ではないので楽にして頂けると助かります」
ぎこちない笑いは変わらなかった。怪しさに拍手がかかる、が、
「ご依頼内容は簡単には把握していますので」
そう、サイト経由で目の前の探偵に連絡を取ったのは他の誰でもないしずるだった。
その行動にしずるは後悔、していたのだ。テーブル手前に置かれ、冷めてしまった
コーヒーを見つめたまま硬直している。言葉が出てこない。その時探偵が注文した
コーヒーが店員によってテーブルに運ばれてきた。どうも、と一言かけた後に
店員がテーブルから離れていくのを横目で確認した探偵は、しずるに対し微笑んだ。
ぎこちなさが消えた。二人を纏う雰囲気に変化が現れたのを、しずるは体で感じる。
「当てましょうか」しずるに指を指し
「貴女は目の前の絶望に死を望み、よからぬサイトを検索した」
した、というと同時に差した指を上下に振る。しずるはびくっと俯いたまま
目だけ探偵に向ける。探偵は真っ直ぐしずるを見ていた。その眼差しに
しずるは目を反らせない。
「しかし、本当は違います。貴女は夫の自殺に納得していません。
妻の貴女に遺書も残さずに逝ったそうですね。自殺の裏側に何かあるとしたら…
そんな希望が心の奥底にあったのです。
だからウチのサイトに行き着いたんだ」
違いますか、と探偵はしずるを見て片眉をあげた。
「ど…どうしてそんな事が…貴方にわかるの…」
まさに核心を突かれたしずるは、涙で声を震わせた。驚いた事に、
目の前の怪しい男はしずるの心の奥を鮮明に見透かしていた。
青い瞳だからか、なんて根拠のない外国人差別が頭をよぎる。
男は真剣な表情でしずるを見つめ続ける。
「今日、貴女と僕がここにいるのは偶然とは言い切れないんです」
「え…?」
「ウチのサイトはね、探偵だとかメビウスだとか、ありきたりな
言葉で検索しても出てこないんですよ。…そうですね、わかりやすく言うなら
検索者の心を侵している闇を、段階に分けて察知するんです。」
「そんな…嘘」
「みたいでしょ? ウチのWebプログラマーは優秀でね」はは、と笑う。
「貴女は死を望んだけど、本当は夫の無念を晴らしたかった。
きっと何かあるに違いないと、信じたかったともいえますね。
…心の底に隠れた希望です。そして」しずるに向けた指を、自分に向ける。
「その小さな希望をサイトが感じて、貴女をここへ導いたんだ」
その真っ直ぐな視線は、しずるの気づかない内に表情を全く別のものに変えた様に見えた。
「優先すべきは絶望より希望です。死はしずるさんをきっと楽にはしませんよ 」
探偵は、しずるの胸につかえてた後悔を信頼に変える。ボロボロ頬を伝えた涙が
しずるの化粧を台無しにしていた。しかし、それを気にせずレイジを
真っ直ぐに見つめ返したしずるは、膝に腕を押しつけ恐怖に抗い口を開く。
「私は、真実が知りたいの…!!」
嗚咽しながら、しずるは正式に探偵へ依頼を願った。目から闇も消えた気がする。
「光修さんの死に隠された真実が、しずるさんに心からの笑顔を
取り戻してくれる事を願って…」
しずると同じく、レイジの目の前にも既に冷めてしまったコーヒーが
テーブルに置かれている。カップを右手で持ち上げると、しずるのコーヒーカップに
軽く触れる。コツンと店内に高い音が響いた。
乾杯と似たその仕草は、二人の間に契約の意志を紡いだ。
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プロフィール

JUNE

Author:JUNE
JUNE(ジューン、ジュン)
旧PN:十文字貴人
男 4月25日生まれ
血液型:A
好きな事:映画鑑賞、読書、落書き、英語勉強
人間は「人生」においては誰もが素人。だから、焦らず楽しもう!

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