Entries

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)
http://jumonji.blog51.fc2.com/tb.php/483-08554b80

-件のトラックバック

-件のコメント

コメントの投稿

投稿フォーム
投稿した内容は管理者にだけ閲覧出来ます

才能の真偽

6

食事休憩は一時間、と決まった時間が設けられてはいたが、その時間をどう使うかは
これといって規制はされていなかった。館内の芸術を堪能した後残りの時間を
食事にあてても良かったし、食事を素早く済まして残りの時間、やはり
自由に芸術鑑賞を楽しむのでも良かった。音色は持ってきた弁当を半分だけ
平らげると後者の行動を取ることにする。前もって、のぞみと弁当のおかず交換を
しようと約束をしていた。彼女が担任の説教から解放されたら一緒に昼食を
仕切り直そう、そう考えながら館内をゆっくりと歩き始める。館内にはちらほらと、
平女以外の一般客もおり、飾られた絵とその下に貼られた説明を交互に眺めていた。
館長が冗談のつもりで話していた通り、そんなに人数はいないように見える。
騒がしいのが得意でない音色には、とても好都合だと思う反面、
館長の挨拶を思い出し、複雑な気持ちになった。足を進める。
館内の一般客は基本的に中年層が多かったが中には若者もおり、男が音色の美貌に
見とれたのか時折彼女を横目で見てきたり、積極的に声を掛けてくる者もいて
不快に感じた。あなたは何をしにここに来てるんですか。芸術鑑賞じゃなくて
女性物色が目当てなら、あまりにも場違いよ。飲み会の席で死んだペットの話をして
勝手に落ち込む人の方がまだ同情できる。そう言いたい気持ちをぐっと抑えて
音色は足を止めることなく丁重に若者を流した。脈なし、と判断した若者は
苦笑いを浮かべて退散していく。そんな出来事がありつつも
美術館の雰囲気は素晴らしいものがあった。清潔感溢れる空間は自然と
音色に深呼吸をさせる。キャンバスに乗った色の鮮やかな息吹が空気中から伝わってくる様に感じた。
芸術に香りが存在するとは。人間の三大欲求が食欲、睡眠欲、芸術欲の
三つなら良かったのに、とそうではない現実を嘆いた。
何人もの画家の絵が白い壁に均一の距離感で飾られ、絵の色合いに合わせた
額縁で装飾されている。元々、芸術に詳しい訳ではない音色は画家の
名前に聞き覚えが殆ど無く、ただ純粋に、ただ素直に数々の絵を見る。
気が付くと、社員食堂の近くまで歩いたらしく談笑している声が耳に入ってきた。
「ヘビースモーカーがエコについて講義してるよ。超、笑える」
いきなり顔のすぐ右から聞こえた声。予想通り、内田の説教から解放されたのぞみだった。
説教を堪能した後だからだろう。言葉とは裏腹に目は少しも笑っていない。
のぞみの見る先には男性教員一人と女性教員数名がいた。
生徒から「エセジョン」という名で慕われるその男性教員は弁当を広げており
「今流行りの弁当男子ってヤツですな。ゴミも出ないし、一食が安く済む。
これぞまさしくエコですよ。このハンバーグも昨晩自分で…」
ガハハと笑いながら女性教員達に話しかけている。
彼は国語を担当する教員、松下淳。角刈りでがっしりとした体つきから
どう見ても体育教師なのに、正反対の教科である国語を教えている。
また名前が有名アイドルの松元潤と名前が似てるから「マツジュン」と
呼んでくれ、と自己紹介で話した所、思春期の女子生徒達からの大ブーイングを経て
「エセ体育教師のジョン」を略した「エセジョン」が生徒の間で定着した。
アイドルの名を出したばかりに"ジュン"さえ希望通りに呼んで貰えない。
その結果に当時、定着したあだ名に本気で意気消沈していた松下の姿は
かなりの哀愁と同情を誘ったのを、一年半後の今でも音色はよく覚えていた。
のぞみの指摘通り、彼は学校でも有名な愛煙家であった。考えてみれば、
確かに愛煙家の語るエコロジー思想なんて本末転倒な気がして笑えるはずではあったが
先程まで置かれていた自分の状況に不満たらたらなのぞみは、今教員の言う
些細な矛盾が全て腹立たしく感じるようだ。まあまあ、と音色はのぞみの肩をさする。
「お弁当、半分残しておいたからさ」
その言葉を聞いてのぞみは眼鏡越しに笑顔を取り戻した。「やっと2人っきりになれたね!」
その言葉を聞いて、今度は音色が顔を歪ませる。
「ノリ悪いなあ」
音色の顔を見てふてくされるのぞみ。音色に悪気はなかった。

食事を終えた二人は、一緒に館内散策にいそしむ事にした。一足先に
説教から解放された音色は既に鑑賞済みの絵画もあったが、そこは
のぞみの気を揉んで彼女に付き合った。時間もそろそろ終わりが近づいてきて、
さあ集合場所に向かおうかという時に、のぞみがその行動を遮る。
「あっちの個人展が見たいんだ」指を、まさに集合場所とは反対方向にある
青い壁で仕切られた一角を差しながら「まだ時間大丈夫だし」と音色にせがむ。
音色は渋った。時間が時間なのも相まってわざわざ集合場所から遠退く必要のある
名前も知らない画家の絵を無理して見るなど、気が乗らなかった。
少し散策の疲れも出ていたから余計だ。
「えー、知らない人だし…もう時間もさ」
「知らない人だからだよ!無名って言わば隠れたお宝なんだってば」
そのあまりの切実な表情に観念し、結局音色は個人展コーナーに足を運んだ。
のぞみの困った表情に音色は弱く、また笑顔にも弱かった。ししし、と笑う
彼女はとても良い顔をする。沢山の画家が作品を展示する中で一人個展を開く画家
斎藤賽輔のスペースに入ると、のぞみは音色の好きな笑顔で周囲を見渡した。
「さいとう…さいすけ、だってさ」
画家紹介、と言えるのだろうかと疑問になる位簡単なプロフィールに
名前と読みがなが書かれていたので、何の気なしに音色は口に出す。
個人の展示だからか、全体が空色で囲われたスペースは少し狭めで
作品も五枚しか飾られていなかった。若い男女が部屋に佇む「恋人達の夢」、
泣いている男を慰める感じにハグする女性が描かれた「救済の時」など
一枚一枚に、他の展示作品と同様タイトルが付けられていた。
「みんな何となく暗い絵だけど、とても良い」
のぞみがぽつりと呟く。その目は真剣だが、悲しみを含んでいる様に
音色は感じた。のぞみは言うなれば「無名マニア」だ。着る服も、
音楽も、携帯に付けるストラップさえも全て一般には知られてない様な
メーカーの商品を好んで使っていた。
「巷で話題になってる物とか、ランキングで一位や上位に上がってる物が
本当に素晴らしいとは限らないんだよね」机に着いたのぞみは無名メーカーの
シャーペンを回しながら「だから情報が蔓延するこの時代に本当に価値のある
物を見極めるのはとても大変な事なのよ」と、初めて教室で会った時、なぜか
悲しげに話していたのを音色は思い出す。今、斎藤賽輔の絵を見る彼女の目は
まさにあの時のそれだ。ヒットは有権者の力で捏造され作られた
ブームとなり一般に知れ渡る。でも、やっぱり無名な物は私と一緒で
あまり人の役には立たないかな、と笑うのぞみに当時音色は「そんな事ないよ」と
月並みな言葉しか掛けられなかった。あの言葉にのぞみは何を思っていたのだろう。
「…ごめんね。ワガママ言っちゃってさ。そろそろいこっか」
過去を思い出し、物思いにふけってた音色をのぞみの満足気な笑顔が
現在に引き戻した。
「ねえねえ、内田先生に何て言われたの?」
「内緒。木島セキュリティーによって真実は確実に伏せられます」
「私だけにパスワードを教えて下さい社長」
「君だけを愛してる、だったかな」
「それは言いたくない」
「破談だ」
「何でー。のぞみとのデート邪魔された理由詳しく聞きたいじゃない」
「んじゃあ、次の日曜にその話する為にまたデートしようぜ」
集合場所に早歩きで向かう二人。しししっ、と笑うのぞみの顔を見る
音色は手を後ろに回し、不満を表すように口をとがらせた。
「もう、そうやって焦らすんだから!」
やはり音色はのぞみの笑顔に弱い。
スポンサーサイト
この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)
http://jumonji.blog51.fc2.com/tb.php/483-08554b80

0件のトラックバック

0件のコメント

コメントの投稿

投稿フォーム
投稿した内容は管理者にだけ閲覧出来ます

Appendix

プロフィール

JUNE

Author:JUNE
JUNE(ジューン、ジュン)
旧PN:十文字貴人
男 4月25日生まれ
血液型:A
好きな事:映画鑑賞、読書、落書き、英語勉強
人間は「人生」においては誰もが素人。だから、焦らず楽しもう!

<>

カテゴリー

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。