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才能の真偽

8

「どうしたの、のぞみ。体調悪くなった?」
ミーネス美術館にて斎藤賽輔の個展を見た後、集合場所に二人で向かっている時だった。
ふと目に止めた、隣に歩くのぞみの表情が何となく寂しさに溢れている事に音色は気付いた。
普段から多少猫背気味の姿勢で歩く彼女だったが、更に何か重い荷物を抱えている様な
そんな気配すら感じられる。ううん、大丈夫。私は元気です。笑ってそう言うと、
のぞみは長く息を吐いた。お世辞にも全然大丈夫そうに見えない。
「そう。なら良いんだけど」
しかし本人が大丈夫だというなら、と音色は気にしない事にした。
歩いていると吹き抜け越しに一階の集合場所であるロビーが目に入った。
百数十人あまりの平女の生徒がざわつきながらも待機しているのが確認できる。
社会人のマナー、もしくは暗黙の了解が五分前行動だと偉い人が説教してきたら
ぐうの音も出ない。どうやら、斎藤賽輔の個展を見ていた時間が仇になったらしい。
集合時間に音色とのぞみが多少遅刻しているという事を、理解せざるを得ない状況だった。
「もしかしたら、今度は二人で仲良くお説教かも」音色が言うと
「ふ、宝探しには犠牲はつきものなのさ」のぞみは半笑いで首を振る。
「間違いなくキング・オブ・マイナーの称号はのぞみのものね」
殿様を立てるように音色が両手をのぞみに向けると、のぞみは満足そうに 微笑み
右手親指を立てた。たまらず音色は笑い声を上げる。
「二人とも仲が良ろしいようで結構ね」
白と青。一段ごとに色が異なる、一階に繋がる階段を下りている所で
声が聞こえ、音色とのぞみは誰かに前を遮られた。胸元まで真っ直ぐ伸びた黒髪が
立ち止まった拍子に揺れている。腕を組み、二人の前に仁王立ちしている女子がいた。
そんな格好でさえも気品が漂う彼女を見て、のぞみは自分とは違う何かを感じ一瞬怯む。
「逢坂さん、呼びに来てくれたの?」
音色は、あくまでも穏やかに場の空気を繕おうとした。逢坂優里、同じクラスで
風紀委員に所属する平女の生徒だ。筋金入りのお嬢様で、ある理由で以前から
音色につっかかってくる事が多かった。
「今集合時間を三分オーバーした所」
「ごめんなさい、出来るだけ急いでたんだけど」
音色は申し訳なさそうに逢坂を見るが表情は険悪だった。ちらと、のぞみを見ると
逢坂は短く息を吐いて、言い捨てる。
「ま、問題児の木島さんがいる時点で遅刻の理由に検討はつくけれど」
理由は見抜かれていた。俯くのぞみに気付いた音色は、感情を露わにし言い返す。
「逢坂さん、そういう言い方は良くないと思う」
「音色、良いんだってば」
「私はよくないの」
流石にのぞみも、これ以上はまずいと判断して口を挟むも、遅かった。
「貴女、スカウトされたからってお高く止まってるんじゃないわよ!」
何訳の分からない事を言ってるのだこのお嬢様は、とのぞみは逢坂の発言に軽く噴き出す。
しかし、そんな悠長な事を考えてる場合じゃないとも気付いた。目の前で音色の両肩を掴んだ
逢坂の口からは、貴女なんか私が本気になれば、と漏れている。端から見れば興奮してるのは
一目瞭然だ。ここは階段。揉み合いした場合に、最悪のケースだって考えられた。
「ちょっと、もう落ち着きなってば二人とも!」
「え」

時間が止まったような気配がした。

のぞみは思い返す。音色に掴み掛かってる逢坂を止めようと勢い良く二人の間に入ったつもりだった。
しかし、その時。その一瞬だ。
逢坂は音色に掴み掛かって”いなかった”。音色と逢坂の隙間に一瞬の隙をついて
大気で壁が出来たかのようにも見えた。結果、のぞみはそこに「勢い良く」突っ込んだ事になる。
「のぞみ!!のぞみ大丈夫!!?」
我に返ったのは、音色の悲鳴にも近い大声が頭上から降って来た時だ。
その瞬間自分の鼻に激痛が走るのをやっと実感した。音色と逢坂の間を勢い良く
抜けたのぞみは、そのまま階段の手すり部分に突撃顔面を強打し、その場で倒れこんだ。
「痛ぁい・・・」
「のぞみ、鼻血出てる!」ハンカチをのぞみに差し出す音色。
「ってぇ・・・へへ、私の顔面白い?」
「そんなこと言ってる場合か!」
音色は少し目に涙が滲んでいるように見え、逢坂は一歩引いて口元に手を当てながら
何をどうしたら良いのか分からないといった面持ちで、ただただ倒れるのぞみを見ていた。
「見えたわよ、木島さん大丈夫!?鼻血出てるじゃない!」
集合時間に遅刻したせいか、遅刻者の行動は離れていた学生そして教員達にも
注目されていたらしい。担任の内田が3人の元に駆け寄ってきた。「これあげるわ」と
のぞみの鼻にハンカチを当て「どうしましょう、とりあえず応急処置が必要だよね」と言い
辺りを見回す。内田から見て9時の方向、トイレの奥へと繋がる通路に美術館事務員のいる
インフォメーションプレイスがあった。
「木島さん、立てる?先生と一緒にインフォメーションに行きましょう。
 頭を打ったかもしれないから、万全は期しておくべきだと思う」
のぞみの左腕を自らの肩に背負い、立とうとする内田。「その場で待て」とでも言われたらしい
集合場所の生徒たちは予期せぬトラブルと、内田の行動を離れた場所からざわつきながらも
見守っていた。はっと、する音色。
「先生、インフォメーションには私が連れて行きます」のぞみを内田から抱きかかえる様に離す音色。
「一ノ宮さん」
「ほら、他の生徒たちが心配そうにこちらを見てます。先生はみんなの所へ戻り
 帰りのレクリエーションを通常通りに行うべきです!」
反射的に、後ろを振り向く内田の目に映ったのは、生徒たちに紛れて手の形を望遠鏡を
持つような形目に当て、こちらを見ていた国語教師の松元だった。向かいのマンションに住む女性の
着替えでも覗いてるかのように見えて、何となく気分が悪くなった。さっと正面に向きなおす。
「そうだよ、先生。私のことは気にひないでさ」のぞみがハンカチを抑えながら鼻声で訴える。
「でもね」
「元はといえば、私たちが集合に遅刻したのがいけないんです。規定時刻通りにきちんと
 場所に来た他の生徒達が被害を受けるいわれはないですよ。私だけで大丈夫ですから」
提案する音色、のぞみを交互に見る。俯き、今、自分がやるべき仕事を考える。
確かに、教員としてここは残りの大勢の生徒たちの不安を取り除き、無事に社会化見学を
終わらせるべきなのではないか、と内田は思った。目の前の一ノ宮音色も、木島のぞみも、
もう子供ではないのだ。自分がいなくたって、どうにかできるだろう。
「そうね、わかった。じゃあ、一ノ宮さん、後は頼んだわ。お言葉に甘えさせてもらうね」
音色は笑顔で頷いた。まるで三人のカヤの外にいた逢坂は、のぞみと内田を見て肩をすくませている。
「さ、逢坂さん行きましょう」
内田に集合場所への帰還へ誘われる逢坂だが
「わ、私・・・でも」自分が関係した一連の流れに、どうしたらいいのか困惑していた。
「逢坂さん」
呼びかける音色に、びくんと体を痙攣させて首だけを向いて逢坂は反応した。
「先生に協力してあげて。風紀委員として、他の子たちを落ち着かせるの」
「一ノ宮さん」
さ、いくよ、と内田に肩を叩かれてそのまま押されるように集合場所のロビーへ歩いていく。
顔はしばらく音色達を向いていた。目で謝罪しているようにも感じられた。

インフォメーションプレイスに向かって、のぞみの肩を抱えながら歩いていく。
その時でさえ、すぐ隣にあるのぞみの顔を気が気ではない感じで音色は見てしまっていた。
ある事が気がかりだった。
足元は大丈夫ね、ちゃんと歩けているみたい。目はまっすぐ前を見据えている感じ。
鼻血は「音色?」いきなり話しかけられて、とっさに答える。
「鼻血は、と、止まっていますか!?」
「え、う、うん。大丈夫だと思うけどどうしていきなり敬語」
「あ、いや。のぞみが心配でさ!」
「さっきは、ありがとね。私のこと庇ってくれたよね。そういう言い方よくないって」
「当然でしょ。もう少し違う言い方あるもん」
俯き気味、というよりは自分の一歩一歩前に進んでいく足を見ながら、のぞみは微笑んだ。
まただ。またあの時の悲しそうな笑顔。
「えへへ・・・そうだよね、私馬鹿みたいだな」
「のぞみ?」
美術館内の時計は午後5時過ぎを、来場者全員に知らせていた。時間が時間なだけに、
元々来客の少ないミーネス美術館にはもうほとんど人気は見当たらなく、
インフォメーションプレイス付近も人はいない。
意識すれば聴こえて来る程度に流れてる館内BGMが静かな空間に辛うじて落ち着きを
与えているように感じられた。もし、BGMが無ければ人のあまりのいなさに「もう帰ってくれ」と
空間から言われているように錯覚を受けてしまうのではないかと思われた。
ドアの正面に立った。木製の重厚感溢れる作りのドアに銀のノブが光っている。
中に人がいるのは分かった。BGMに掻き消されない程度に、部屋から声が漏れていた。
「すみませーん」ドアをノックしながらも、室内の反応をうかがう音色。
「友達が館内で頭を打ってしまって・・・」
そう訴えるが、中からしばらく反応が無かった。おかしいな、と音色は思う。
間違いなく人はいるはずなのに。声を掛けた後、不自然に室内が静まり返ったような感じがした。
もう、一度声をかけてみようか。それでも反応が無いなら申し訳ないけど中を覗かせて貰って・・・
声を上げようとした瞬間に、ギィとドアが少し開いた。なんだ、やっぱり中にいるじゃない。
「あ、あの、この子が」ドアの奥にいる人物に話しかけた時、
「駄目!入っちゃ駄目!逃げて!」
女性の泣きそうな悲鳴に近い叫びが聞こえた。
顔に覆面を被った人間がドアから飛び出ると、音色とのぞみの隙間を縫うように通り走り去っていった。
一瞬の事だった。なのに、スローモーションの様に音色の目に焼きつく逃亡犯のしなやかな動き。
ドアの向こうにいた事務員の女が、こっちを指差しているのが見える。声にならずに
指だけエレベーターのボタンを押すように、繰り返し動いている。
何だ、この人は何が言いたいのだ。あ、そうか。
彼女は、音色の隣で頭から血を流して倒れているのぞみを指していた。
ドアから飛び込んできた男が、手に持っていたバットでのぞみの頭を殴打していた。やっと把握した。
「のぞみ!血!頭から血!大丈夫!!?」
情けない。人間はわかっていても、状況に飲まれ確認せずにはいられない生き物なのだろう。
大丈夫ではない。そんなことはわかっていた。
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JUNE

Author:JUNE
JUNE(ジューン、ジュン)
旧PN:十文字貴人
男 4月25日生まれ
血液型:A
好きな事:映画鑑賞、読書、落書き、英語勉強
人間は「人生」においては誰もが素人。だから、焦らず楽しもう!

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