Entries

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)
http://jumonji.blog51.fc2.com/tb.php/511-cf86f86a

-件のトラックバック

-件のコメント

コメントの投稿

投稿フォーム
投稿した内容は管理者にだけ閲覧出来ます

才能の真偽

10

ここ最近しずるはよく夢を見た。夢とは言っても睡眠中に見る類のものではない。
起きながら、何となしにぼうっと気を抜くとゆっくりと目の前が闇に沈んでいく。
気がつくと、闇の中に夫の仕事に関わりのあった人間がぽつぽつ現れる。
顔ははっきり見えなかった。ただ、ボーリングのピンの様に一定に並んだそれらを
自分は憎んでいる事は理解した。感情のままに一人ずつ、その夢の中で
しずるは彼らを殺害している。おぞましい。その一言に尽きる、悪夢。
なかなかの頻度で見るその悪夢に、今回は不釣り合いな音が入り込んだ。
3度目に耳に届いた時、その不協和音が家のチャイムである事に気付く。
しずるは小走りで玄関に向かった。ノブを回し手前に引くと見慣れた男が立っていた。
「…何だ、渡部刑事ですか」思わず溜め息をつくしずる。
「何だって事は無いでしょう。呼んだのは奥さんです」後頭部をかきながら男は口を尖らせる。
「ごめんなさい。ちょっとぼうっとしてて」
しずるは慌てて謝罪すると、渡部と読んだその男を居間へ案内した。渡部は着ていたコートを
右腕で抱え、居間のソファーに腰掛けるまでの間歩きながら室内を見回した。
「何か物珍しいものでもありますか?夫が亡くなってから何度か
いらっしゃってるのに」
「ああ、失礼。違うんですよ。霧宮先生が亡くなって、奥さんが一人で
住むにはこの家は随分広いなと来る度感じて」
「…流石刑事さんですね。きちんと見てらっしゃるのね」
「あ、すみません。多分本当に出来た刑事なら゛そういう行動゛も家主に
気付かれないようにするんでしょうが…以前上司に言われましたよ。
お前みたいな奴が一番刑事に向いてないって。
まずポーカーフェイスから教えなきゃなのかと呆れられましてね」
話をしやすいように場を和ませようと、自虐したつもりだがしずるはくすりともしない。
こほん、と咳払いをしてフォローの言葉を探した。
「…心中お察しします。せっかく今日もこうやってご自宅に足を運びましたが、
残念ながらお話出来る様な目新しい情報も掴めてません。」
「そう、ですか…」
渡部は警察庁捜査2課に属する若手の刑事である。霧宮光修の一件を任された捜査代表の一人だ。
光修自殺後、「自殺」と警察からの発表はあったにも関わらず、その結果を信じなかったしずるは、
以降捜査での続報を一般人に話せる限りの線引きでいいから教えて欲しいと、
渡部に事前に伝えていた。その件で今日渡部は霧宮邸に訪れた。
渡部は居間に案内され、ソファーに腰掛けると右腕のコートもソファの背もたれに掛ける。
しずるも台所で入れたコーヒーを渡部の目の前に差し出すと、渡部の向かいに座る。
40インチの液晶テレビ、その丁度真上に位置する、透明な枠の中にシルバーの鏡面加工が
施された掛け時計が15時22分を部屋中に知らせている。
テレビの左脇には木製の落ち着いた棚があり、生前の霧宮光修の写真や
着物を着て映った光修としずるの結婚写真も立ててあった。写真の中の光修の表情は
彼の性格をしっかり反映している。
「納得はして頂けてないようですね」
コーヒーをテーブルに置き、そのまま「変わりの無い報告」を聞いて
落胆している様に見えたしずるに、渡部は声を掛けた。しずるの長い睫毛は
下に垂れたままだ。
煙草いいですか、と聞くとしずるが頷いたので渡部はスーツの裏地ポケットから
フィリップモリスの箱を出す。
「奥さんの気持ちはわかりますがね」右手で箱の側面を叩く。煙草が一本顔を出す。
「私達だって仕事ですから。抜かりはありませんよ。今の時点で
他殺の可能性はゼロだと断言出来ます」煙草を口にくわえ、火をつける。
じゅっ、と音を立てて煙草が呼吸を始めた。控えめに口から煙を吐きながら、言う。
「窓から人が入った形跡もありませんでしたし、そう考えると、家にいた奥さんに
見つからないように先生の書斎に行くのは家の構造的に不可能です。他殺の線を考えるなら、
先生を殺せるのは物理的には奥さんしかいない。アリバイもありませんし」
「そんな…私が主人を殺すなんて」
「ただ、捜索隊による調査により奥さんの殺害の可能性も消えたんで、ご安心を」
「確かに、あの人と私は夫婦とは言え日常会話も少なかったですし、職種も特殊ですから
仕事で悩みもあったのかもしれません。でもあの人は私にそういう話をするのを
嫌ってましたから。逆に言えば文句も言わなかったんです。
夫婦内でもトラブルは無かった・・・つもりです」
「つまり、奥さんの見た限り先生に悩みがあった様子もなく、
夫婦間の問題もなかった。やはり今も自殺の原因には心当たりは無いと」
「…ええ」
どうやら、今回お互いにとって利益のある情報交換は無いらしい。
無駄足か、と心の中で舌打ちをし渡部は右後頭部をさすると、出されたコーヒーを啜った。
「レナ、という人物にも心当たりはありませんか?」
渡部からの質問に、しずるはあからさまに嫌悪感を示した。おや、今日訪問してから
一番の反応じゃないか、と渡部は感じる。理由はとても分かりやすい。男女の話だ。
「知らないと申し上げたはずです」
「レナの膝の下で眠りたい…この現場にあった走り書き。マスコミでも警察でも
様々な憶測が飛び交ってましてね。濃厚な説は、先生は生前にこのレナという
人物と不倫していたのでないか…と」
「有り得ない」
「私の夫に限って?」
「私が言うのもなんですけれど、主人は他人とのコミュニケーションは苦手なんです」
「先生ほど話題性がある男性なら、女性は勝手に近づいてくると思いますがね」
渡部の言葉にしずるは絶句した。目に涙が溜まり、肩も震えている。ふぅっとため息をつくと
渡部は表情を柔らかく作り直した。
「いやぁ、申し訳ない。私は別に奥さんを困らせに来た訳ではないんです。
ただ、このレナという人物が実在するのなら間違いなく先生の自殺に関係し、
尚且つ詳細を掴めさえすれば捜査にかなりの進展を期待できるので」
レナの膝の下で眠りたい。この文字による遺言は、光修の自殺の報道がされた時
世間を大いに沸かせた。光修の書く小説から、また作家イメージから
大衆がこの遺言から空想したものは大部分は「よくない」もの、誹謗中傷に
近いものだった。既に既婚者である人間の残した、説明しようがない異性の存在は
短絡的に不倫という関係しか、皆の中で答えを導き出せなかったらしい。
「レナって人が本当にいるなら、生前主人とどんな関係だったのか・・・
一番知りたいのは私の方なんです・・・」
鼻から下をハンカチで隠すしずる。やれやれ、と渡部はあご下の剃り残しの髭をさする。
「・・・でしょうね」
少し長居をしすぎた、そろそろ潮時か。そう判断した渡部は、ソファーに掛けた
コートを右手で取ると立ち上がった。
「今日はもう失礼します。コーヒーご馳走様でした」
中腰で灰皿に煙草を押し付ける渡部に気づくと、反射的にしずるも鼻を啜りながら、
玄関まで渡部を送ろうと立ち上がる。
「泣かせてしまいましてすみません」
靴に足を入れ、玄関を背にして渡部はしずるに詫びる。
「いえ…主人が亡くなってからずっと涙もろくなってしまって。私こそ
お恥ずかしい姿をお見せしてしまいましたね」
鼻と頬を真っ赤にしながら、顔に笑みを戻すしずるを見て、渡部は微笑み返すも
同時にしずるに若干の色気を感じてる事に気づき、すかさず無表情を作り直した。
「では、これで」
「ご苦労様です。今後も、何かあったら宜しくお願いします、渡部さん」
会釈するしずるを背に、玄関を離れ霧宮邸を後にする渡部。

空を見上げながら、駅前に向かって歩いた。今にも泣き出してきそうな空を見て
タクシーで署に戻ろうと財布を取り出すと、ある事に気づいた。
テーブルの上にフィリップモリスの箱を忘れてきてしまった。
「奥さん泣き出すんだもんな。動揺しちまった…」
お前またか。女の涙に動揺する奴が一番刑事に向いてないんだ。
頭の中で、上司が腕を組んで説教してくる。勘弁して下さいよ、と渡部はすかさず
走ってくる空席のタクシーを大袈裟な身振りで捕まえると、逃げるように車内に乗り込んだ。
スポンサーサイト
この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)
http://jumonji.blog51.fc2.com/tb.php/511-cf86f86a

0件のトラックバック

0件のコメント

コメントの投稿

投稿フォーム
投稿した内容は管理者にだけ閲覧出来ます

Appendix

プロフィール

JUNE

Author:JUNE
JUNE(ジューン、ジュン)
旧PN:十文字貴人
男 4月25日生まれ
血液型:A
好きな事:映画鑑賞、読書、落書き、英語勉強
人間は「人生」においては誰もが素人。だから、焦らず楽しもう!

<>

カテゴリー

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。