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才能の真偽

11

例えるなら、自分の犯してしまった過ちを、素直に嘘偽り無く説明する容疑者の様に、
前日に自らに起きた出来事を全て告白した。空間に吐き出したと言ってもいい。
音色は感情に打ちひしがれていた。過去に起きてしまった事は取り返しのつかない
場合が多い。それでも後悔を感じずに生きていける人間は少ないはずだ。
事務所の空気にそぐわない内容と音楽を垂れ流しているテレビを、
レイジがあえて消さずにいたのは音色を思ってか、はたまた空気に自分が耐えられないと
感じたからか、定かではなかった。番組は本当に終盤に差し掛かっているらしく
テレビ画面の下部にスタッフロールが流れ始める。「王子様のブランチ」司会者は
本日のまとめとして、付近に座る番組ゲストに今日の内容で気になった部分について
簡単なコメントを求めた。タレントとは経済の広告塔を意味するらしい。
振りに返す様に「あれが良かった」であるとか「自分も行きたい」などという予定調和な
一言を言い、周囲もうんうんと頷いていた。テレビ的、とも言える。
また今夜放映のドラマに出演するタレントもおり、フリップを抱え番組の宣伝もしていた。
最後は出演者全員、番組の決めポーズで「また来週!」と笑顔でカメラ目線。
そうやって視聴者との繋がりを絶った。良いタイミングだと判断したレイジは、
「王子様のブランチ」終了を確認してやっとテレビの電源を切った。すぐ後に、
外を走ってきた自動車のエンジン音が、事務所内の二人の体に響く。自動車が通り過ぎ、
部屋が無音に近付くと、ソファーに上半身を預ける音色からの、泣き声の輪郭が浮き上がった。
「レイ」涙に押されながら、半分鼻声になった音色が口を開く。
「ん?」
レイジが恐る恐る反応すると、地面に接していた腰をゆっくり上げ、音色は改めて
ソファーに座り直す。泣いてる顔を背ける様に、俯きながら、言った。
「私、小学生の頃に家でハムスターを飼ってたんだ。親にペットを飼いたいって
話したんだけど、両親が忙しい家庭だったから世話を満足に出来ないでしょ、ってなかなか
許して貰えなくて。ハムスターなら小さいし、自分で何とか世話出来るって説得したんだ」
「うん」
「可愛かったよ。ちっちゃくてね、散歩にいく必要もないから世話も私だけで出来たし
雨の日は一日中ハムスターと遊んだり。忙しいからかお父さんもお母さんも家ではあまり
笑わない人だったけど、抱っこして見せるとハムスターを見て笑うようにもなった」
「うん」
相槌を打ちながら、レイジはソファーに近づいた。音色の右隣に寄り添う様に
少し間隔を開けて、腰を下ろした。
「だけどね、ハムスターは犬や猫と違って何年も生きられないの。最後は病気にかかって
病院に連れて行ったけど手遅れで、弱りながら死んじゃった。
私が初めて目の当たりにした死は、そんなちっぽけで、でも私達家族に少ない笑顔を
与えてくれたかけがえのないものだった」
「音色はペットを通じて良い経験をしたんだね」
話が終わった様に見えたが少しのタイムラグを経て、音色は続ける。背中が
猫背気味になっっている。注視すると肩が震えているのが分かった。
「ハムスターが死んで家族はとても悲しんだ。初めての家族の死、こんな小さな死が
ここまで辛いなんて思わなかったんだ。そう痛感した私達はペットを飼う事をそれきりやめた」
話を続けながら、涙が滲んでくるのか声がだんだん不透明になっていく。気がつくとレイジも
話を聞きながら俯き、ソファーの縫い目を意味もなく見続けていた。
「ちっちゃな家族が死んだ翌日、学校へ行ったの。私は前日の事が忘れられなかったし
すごく落ち込んで授業にも集中できずにいた。でも、教室にいるほかの生徒達は
そんな事知らないで昨日のテレビの話題とかで笑顔を見せ合ってた。当たり前だよね、
クラスメイトのペットが死んだなんて、私から言わない限り誰だって分かる訳がない」
呻き声が漏れた。音色は靴を脱ぐと、ソファーに体育座りになり、膝に顔をうずめる。
頭が悲しみで震えるのを膝で支えているようにレイジには見えた。
大丈夫かい? レイジが声を掛けると音色はそのまま体全体で小さく反応した。
「でもね、私にはその当たり前が凄く寂しかったの・・・」
頭の中で、当時の記憶が鮮明に蘇っているのだろうか、まるで小学生に戻った様な口調だった。
「今も、のぞみは病院で意識不明で入院中なんだ。でも、それを知っていて
可哀想にって、感じてくれる人なんてほとんどいないのが現実なんだって。
『王子様のブランチ』だってそう。あれって生放送番組だったよね。この世界の
どこかで頭を殴られて重態の人間がいるなんてこと、知らずに楽しそうにさ」
どんどん声が小さく絞られていく。自信が無くなっていったからだ。何故ならば音色も
自分がどんなに理不尽な事を主張しているのか心の底で理解はしていたから。
それでも、この社会の明と暗へのわだかまりを、そしてそれに対する批判を
口にせずにはいられなかった。人一人が、どんな状況に陥ろうが世界は止まりはしない。
更に言うなら、きっと振り返る素振りすら見せてはくれないだろう。
窓の外は、室内の空気、二人の気持ちとは対照的に程ほどに雲が横たわるも見事な快晴だった。
「残酷だ、そんな世界消えてしまえと思っちゃう私は駄目だね」
「駄目かも」レイジは息を吐く。そのまま左手を音色の頭に置き、撫でた。「でも、僕は、許すよ」
膝に顔をうずめていた音色が、レイジの言葉に一瞬戸惑い、目だけを彼にやる。なぜ、と訊いている。
「僕一人でも許す事で音色が救われるなら、それでいいと思う」レイジは微笑んでいた。
「何よ。それじゃレイも駄目じゃん」
かもしれないね、とレイジは口角を上げた。あはは、と笑いながらも目だけを向ける音色の髪を
くしゃくしゃに撫でる。意味が分からず、音色は口先をすぼめた。
「音色はのぞみちゃんが心配なんでしょう?」
「うん・・・」
「のぞみちゃんにとっては、きっと”それだけで十分”なんだ。
音色が心配してくれるだけで幸せだと思うよ」
「そうかなぁ・・・」涙が溢れてきたのか、また膝の間に顔をうずめ、呻き声に近い
言葉を呟く。「そうなのかなあ」
「世界でたった一人でも、誰かが自分を信じてくれるなら、それを支えに人は頑張れるんだ。
音色がね、この世界を良く思わないのなら、僕はそれを否定しない。
周りの人間が君を責めようが僕だけは、味方でいよう。だから、音色も
世界が友達の不幸を知らない振りしても、君だけは誰よりも祈ってあげるんだよ。
君だけは誰よりも彼女の存在を気にしてあげるんだよ。世間なんて存外糞食らえなものさ」
「え」
糞食らえ、なんて綺麗とはとても言えない言葉を優しい台詞に唐突に混ぜた
レイジに意表を付かれ、音色はぷっと吹き出してしまった。
「私まだ何もしてないんだけど」
「ん、僕が何か言ったかい?」
何事も無かったように、そのままの微笑みで音色を見るレイジに、もう負けましたと
音色は笑い声を上げた。ソファーから脚を下ろし、涙で真っ赤に腫れた目を隠すのも
やめレイジの肩を軽く叩いた。「レイジのばか」
 ひとしきり笑って、探偵事務所メビウスに普段の空気が戻ってきたように感じた。
音色は気分が落ち着いたのか、鞄を開いて教科書とノートをテーブルに広げている。
レイジは事務所内の自分の机に座ると、置いてある新聞を開いて内容を確認していた。
社会面には大きく、日本の総理大臣の写真と政策の進行の悪さを批判するような見出し、
そして目新しくも無い、野党の意見などが書かれている。同じ日本の国会にいて
この人達はどうしてこうもいがみあうのだろう。もっと全部の党で互いの
長所を受け入れ、団結して政治を行う事ができないものか、などと考え苦笑する。
ゆっくりと新聞をめくっていた手が、止まった。
「音色、一つ仕事を増やそうかと思うんだけどね。探偵として少し興味がある。」
授業の予習をしていた音色は、レイジの発言に反応し顔をレイジにやった。「何?」
「ミーネス美術館かな?平女の社会化見学の場所は」
「え、私教えたっけ?」
驚いて机に駆け寄る音色の顔に、レイジが新聞を近づけた。左手人差し指で強調された所に
『都内美術館で女子生徒が頭部殴打される』と見出しのある小さな記事が確認できる。
「何故、昨日のぞみちゃんは被害に遭ってしまったんだろうね」
仕事を増やそう、自分で言い出したレイジではあったが、もしかしたらこの人は既に
何か情報を知っているのではないか。迷いの見えないその表情から、音色はそう感じた。




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プロフィール

JUNE

Author:JUNE
JUNE(ジューン、ジュン)
旧PN:十文字貴人
男 4月25日生まれ
血液型:A
好きな事:映画鑑賞、読書、落書き、英語勉強
人間は「人生」においては誰もが素人。だから、焦らず楽しもう!

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