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才能の真偽

12

休日運転は乗り換えを通常より多く必要とするから、亜紀は嫌いだった。
中央線一本で新宿に行けないなんて、この運転方法で一体誰が喜ぶのか、
理解出来なかった。おまけに家を出る時は安定してた空がぐずぐずし出したと思ったら、
電車に揺られる途中で結局小雨に変わってしまったものだから、気分はさらに憂鬱になる。
ホームから階段を上って、東口を目指す。途中、洋菓子の宣伝をする店員がいて
客引きで声を上げていた。有名なテレビ番組で紹介されて以来売上一位、予約しても
3ヶ月待ちの商品だと謳っている。そりゃあテレビで宣伝したなら売れるよね、と
思いはしたが、亜紀も女性だから甘いものは好きだった。4人位の女性客が並ぶ
その商品の為だけに急遽こしらえたのだろう、販売スペースを口を半開きにしながら
比較的ゆっくり通り過ぎる。
3ヶ月待ちでは今行かないとすぐに売り切れるのだろうな、と思った。
シュークリームか、私達はきっと出会えない運命なのだ。

都内は人が多いのは当然だが、新宿駅構内はその中でも最たるものなのではないか
と思われた。改札を出てすぐの「東口」と書かれたプレートが付けられた柱を視界に捉える。
同じ様に周囲を歩く人達をすり抜けながら柱に近くと、付近に立った。
約束の時間より五分ほど早く着いたらしい。ホームも改札を出た後も、自分がいる
この柱付近も把握しきれない位の人だかりで成り立っていた。改札から出て、
待ち合わせの友人と手を取り合って再会を喜ぶ女性や、携帯の画面を見ながら足早に駅を
出ようとするサラリーマン風の男性など、止まる気配の無い人々の動きをただ
ぼうっと眺めていると、彼ら一人一人に全く異なった人生があるんだな、と何とも言えない
思いに感情が止まった。
「眠そうだねぇ宮下さん。今日平気?」
気がつくと、目の前に男が立っていた。おうど色のスラックスに、白いYシャツを
羽織っている。緩めにネクタイを締めているが、それ以上にYシャツから透けたランニングが
気になった。栄新社で、話を聞いた、あの男だ。おはよう、と挨拶すると汗を
ハンカチで拭った。左脇に抱えた鞄、腕に下げられた白い紙袋が顔を拭うハンカチと
リンクするように揺れている。
「おはようございます。え、私、眠そうな顔してました?」
「可愛かったから大丈夫よ。美人はどんな顔でも画になっていいねぇ」そう答えると
男は鼻の下を伸ばし、目を細くして笑った。
「はぁ、どうも。市村さん」亜紀は歪んだ笑顔しか出ない。
前回、栄新社で話をした時に本題前のつかみとして世間話もしたのだが映画の
話題から「でも、いとつなぎって私はあまり良い話だとは思わなかった」と亜紀は話した。
とりあえず話題になっていた映画だったので観てみたが、どちらかと言えば
主演に旬の若手俳優や女優を使った本当に話題しか取り柄の無い映画に感じた、と
亜紀は率直な感想を述べた。目の前の男の表情が変わるのに気付いた亜紀は、しまった、と
青ざめる。自分達が作った雑誌に掲載された原作の映画を悪く言われて、気分を
害しない編集者は少ないと思ったからだ。しかし、反応は予想外のものだった。
「君なかなかわかってるじゃないの」
そこから、映画の話題で男が食いついた。最近の邦画や日本のドラマは駄目なんだよねぇ、
と自分の熱い思いを亜紀に話した。そして、最終的には「そうだ。今度映画観に行かない?
付き合ってくれたら、病院の事話しても良いけど」と、男は亜紀を誘う。

それが、今に繋がる。何せ、付き合わないと情報が聞き出せないのだから仕方なかった。
編集部を去る間際に、連絡してよ、と渡された名刺で亜紀は初めて名前を知る。
名刺には「栄新社 文衆編集・市村秀雄」と記名してあった。
まあついてきなよ、と市村に言われるがまま亜紀は新宿東口の脇通路を進む。
そのまま、地下道に入った。
「今日小雨降ってるよねぇ。地下道通れば、これから向かう映画館にはほとんど濡れずに
行き着けるんだ」
市村は自慢気に鼻を膨らまして言う。それは良いですね、と亜紀も素直に答えた。
地下道を通り、小さな飲食街、書店を抜けると、外に出る。ポツポツと雨が降る中、
三、四歩も歩くと、その映画館に着いた。真っ白なビル、壁に「新宿シネデリー」と
名称を掲げてはいたが、アパレルブランドのショップ隣に位置する割に、外観の洗練さで
アパレルショップにも劣っていない事に亜紀は感心した。
一階からエスカレーターで上に登るとロビーが目の前に広がった。
外観と同じく白とシルバーを基調とした内装もやはり、洗練されていた。
観る映画は待ち合わせ時間に合わせた、日本の映画だった。漫画が原作の、やはり
旬の俳優らで主演を固められたアクション映画で、しかも市村の希望だった事が、
あれこの人日本の映画に絶望してたんじゃなかった?と亜紀は意外に感じる。
ロビーを見回すと向かって左側の壁に新しい作品のポスター、その下にこれからの
上映作品のチラシが並べられていた。近づこうとすると「早くチケット買っとこう」と
市村に促される。少し残念に感じたが市村に従って、チケットカウンターに向かった。
都内の映画館なので人が多いのは勿論だが、比較的女性が多く感じた。 客の内の一人が
上を指差してたので、反射的に指の先に目をやると、カウンター上のカラー液晶に
上映作品名と時間、チケットの販売状況が◎、○、△、×で表示されている。
「良かった、俺らが観るのはまだ○だ」
と、市村が心底安心そうに呟いた。前に並ぶ客が店員に声を掛けられカウンターに行くと、
すぐ目の前、一番左側のカウンターが空き、二人はそこで目的の作品のチケットを買う。
劇場の番号を店員に説明され、その場を離れようとした。
異変はその時起こった。
「何だよそれ!不公平じゃねぇか」
亜紀達の右側、一つカウンターを隔てた左から三番目のチケットカウンターから怒号が飛んだ。
何事かと、他の一般客が怒号の先に注目する。
四十代位に見える痩せ型の眼鏡を掛けた男が、店員に飛びかかる
勢いで身を乗り出していた。
「申し訳ありませんが、決まってる事なので」女性店員は男に低姿勢で謝罪している。
「レディースデーだから女だけ映画千円って、何だよそれ!ずるいじゃねーか」
今日は祝日の水曜日。新宿シネデリーでは毎週水曜日にレディースデーを設けており、
女性客は一律一作品千円で映画を鑑賞する事が出来る。どうやら眼鏡を掛けた男は
そのサービスに不満があるようで店員に詰め掛かっているらしい。
亜紀の後方に並ぶカップルらしき男女の、女の口から「何あれケチ臭い」と聞こえた。
「お前は疑問に感じた事無いのか?どこもかしこもレディースデーやら女性限定やら
 女だけが得する事ばかりじゃねえか。男はいつも損ばかりだ、え?お前も女だもんな
 サービス受ける側だから何とも思わねえんだろうが!」
男は、なあどう思うんだよ、と女性店員にまくし立てる。女性店員は「申し訳ありません」と
ひたすら謝るしかない。
「いいか、よく考えてもみろ。世の中男女平等を訴えるフェミニストとやらが
 散々権利を主張して、逆に女性優遇社会になってきてるが、そんなのおかしい。
 君らは収入で男より随分劣るんだから、色々値下げして生活しやすくしてあげるよ、と
 社会に見下されてるようなもんって何故わからん。本当に男女平等を訴えたいなら
 ふざけるな、不公平だ。私だって映画位男と同じ料金で観られるぞ、と今の状況に
 逆に反発するべきだろうが。それをしないのは、結局女が得するからだろ。え?違うか!?」
男は周囲に聞こえる声量で、主張した。声が裏返っている。
チケットカウンターに男性店員の姿が見えた。チケット担当には女性店員しかいなかった為、
インカムで誰かが呼んだらしい。スーツを着てるので、社員かもしれない。女性店員から
何やら説明を受けると眼鏡の男の前に現れる。
「お、男じゃねえか。なあ、あんたならわかるだろ!これは明らかな男性差別だ」
「はい、分かります。この度はお客様に不快な思いにさせてしまい申し訳ありません」
ほら、君も一緒に、と隣の女性の肩に触れると今度二人で客に礼をした。しかし、
男は表情をさらに険しくし、そんなのを望んでる訳じゃないんだ、とわめくのを止めない。
周囲の客、店員もおろおろしながら反応に困っていた。男性店員が来ても態度が
怯まない男に、亜紀は苛立ち始めた。
「あんた、いい加減にしないか。店員謝ってるだろうって」
さすがに眼鏡の男の言動が目に余ったらしい。市村が、仲介に入ろうと男に話しかけた。
眼鏡の奥の充血した目が市村を見据える。目標変更、と聞こえたような気がした。
「なんだと? お前には関係ないだろうが」
「正直ここにいる客全員に関係がある。悪いが、同じ男として恥ずかしいんだ。
 その辺にしといたらどうだ」
眼鏡の男は興奮していた。茹でだこの様に顔を赤くさせ、ずんずんと、市村に近付く。
「誠意を見せて欲しいんだよ俺は!」
男性なら容赦しない、という様に勢いと感情に任せて、男は市村に掴みかかろうとした。
殴られる、覚悟を決めた市村はとっさに顔を両手で覆う。中腰になる。
亜紀の耳に、「きゃ」と女性の声が聞こえた。迷い無く左側に体を避けると、後ろにいた
カップルの女が、持っていたドリンクの紙コップを落とし、床に落下。落ちた拍子に
蓋が取れて中からオレンジジュースが溢れた。「なんか手の力が抜けた」と猫なで声を
出す女に一緒にいた男が、周囲に平謝りをする。何やってんだよ、と女を責めた。
「うわ」
男の声が聞こえた。市村に掴みかかろうとしたが、先程女がこぼした
ジュースに足元を救われ、滑ってその場で転倒した。雨の日に車のタイヤが飛ばす
水しぶきの様に、亜紀の目の前をオレンジジュースが舞う。
「いてぇ・・・なんだよ、なんだっていうんだよ今日は!」
男はその場で尻餅をつき、ずれた眼鏡を直しながら天井を仰いだ。
「宮下さん?」
亜紀は、溜息を吐くと尻餅をついた男に近付いた。予想外の行動に隣の市村は困惑する。
目の前にヒールのつま先が見えた男は、亜紀を見ると即座に立ち上がった。「なんだ、おまえ」
横目で男を見ると、カウンターで泣きそうな顔をしている女性店員に話しかけた。
「レディースデー料金と一般料金の差額は800円でしたっけ?」
「は、はい。そうですけれど・・・」
差額の料金を確認すると、財布を取り出し800円をレジの受け皿に置いた。
女性店員も、スーツ姿の男性店員も状況を把握できずに立ちすくんでいる。
そのまま、横を向く。やはり同じように立ちすくむ眼鏡の男をまっすぐ見つめ、言った。
「世の中の流れやシステムに不満を持つのは仕方がないことだと思います。
 私もどうにもならない事、汚い事に嫌悪を感じる事が沢山あるから。
 でも、だからと言って周囲の人たちに迷惑をかけていいのでしょうか。 
 女性優遇社会になりつつある、というあなたの主張は、そう思う方もいるって
 理解しました。女性専用車両とか。あれは女性優遇した結果、男は皆痴漢をする、と
 短絡的な考えで形になった男性差別に他ならないと私でさえ思う。
 感情に任せたフェミニスト団体が幅を利かせてるってことも。でも女性が全員、
 そういう団体を容認しているとは思わないで欲しい。これも世の中の流れやシステムと
 同じで、女性個人がどうこうできる問題ではないのです」
眼鏡の男は口をぽかんと開けたまま、亜紀を見ていた。はっとして、何か反論せねば、と
言葉を探すように口をぱくぱく動かす。「お前みたいな小娘に俺の気持ちなんか」
自分よりも一回りくらいは若いであろう女性に諭されているという状況に、羞恥心が
芽生えたように見えた。しかし亜紀は男性の言葉をさえぎって、言う。
「だから、今日は私があなたを優遇するわ」その言葉に男は目を丸くする。「は?」
「今日あなたが映画を観る代金から、私は800円を負担します。受け皿に置きました」
そういうと、800円分の小銭が置かれた受け皿を手にとって男に見せた。「これで
レディースデーの女性と同じ立場になる」受け皿を元に戻し、「残念ながら今日だけですけど」
眉を下げて男を見る。
「なんで君がそんな事」
「あなたへの理解を態度で表してるだけですよ。映画楽しんでください」
さぁ、もう行きましょうか、と亜紀は市村に目配せすると、颯爽とその場を去って
劇場入り口へと足を向かわせた。その場で、状況に置いてけぼりにされた他の客達は
知り合い、他人関係なく顔を見合わせる。「凄いもの見ちゃった」と、ドリンクを零した
女が言ったのをきっかけに、客全員が動き出す。「あ、お客様私がやるので結構ですよ」と
店員が先ほど床に広がったジュースを掃除しに、雑巾とバケツを持って現れた。
本当すいません、と連れの男は謝罪し、そのまま女と一緒にカウンターへ向かった。
ロビーがやっといつもの光景へ戻った。

映画を鑑賞した後、特に寄り道もせずにそのまま亜紀と市村は新宿駅東口改札、つまり
朝待ち合わせした場所へ戻ってきた。「どうだった?宮下さん」
市村に映画の感想を求められ、亜紀は駅の天井を見ながら記憶で内容を反芻する。
「主演のアイドル俳優がいたからか、映画の内容は大衆向けだったじゃないですか。
 原作の漫画自体は、青年誌で結構グロデスクな表現が多くて、そういうものが
 支持されてると思いましたけど、基本全部カットで。やっぱり、漫画の実写化は
 難しいんだなぁと思いました」相手の反応を探るように上目遣いで市村を見る。
「そうだよねぇ。俺も同意見」
「でも、日本映画にしてはアクションもCGも割と見られました。出演者が
 比較的若いからかな。動きは機敏で見応えありました。現実離れした描写が多い原作を
 映像面ではそれなりに見せられていたと思いますよ。現実にないもの、  
 存在しないものを現実味を持たせたものとして表現するのは凄かったです」
映画の良い部分を強いて答えると、市村が良い笑顔を見せた。
そうかい、それは良かったと後頭部をさすった。
「実はこの映画、仕事の関係で知り合いになった人がCGの
 スーパーバイザーをやっててね。映画の仕事をしてて、初めての
大きなタイトルだって言うものだから気になってたんだよね。
 こういう映像が見られる時代になったってのは喜ばしいよねぇ」
なるほど、日本映画やドラマの現状を嘆いていた市村がこの映画を観たがってたのは
それが理由か、と亜紀は心中で納得する。「宮下さんがCG褒めてくれて、安心した」
時間は午後2時をすぎた所だ。市村から昼食に誘われたが、このまま編集部に
戻って仕事をしなければならないと亜紀は断った。残念だねぇ、と市村は笑った。
「では、今日はどうも」
「いやいや、こちらこそ。久しぶりに若い女の子と遊んで若返った気がしたよ。
 とても楽しかった。あ、お礼と言ってはなんだけど」
そう言うと鞄を足で挟み、市村は亜紀に朝から持っていた白い紙袋を差し出した。「本当は自分用に
買ったんだけど、ロビーで客に絡まれた時にも助けられちゃったしねぇ」
「え、いや私何も」亜紀は首を横に小刻みに振り、紙袋を受け取るのを拒んだ。
「今日は良い日だったから。気持ちだからさぁ」
ほら、と強引に渡されると、仕方がないのでしぶしぶ受け取った。
「また、編集部に来てよ。今日は忙しいみたいだから、次の機会にでも
 矢追さんのこと話すよ。」
わかりました、お疲れ様ですと答えると、そのまま亜紀はお辞儀をして中央線の
ホームへ向かうべく改札に入った。
大変な一日だった。まだ、編集部で仕事が山済みなんだよね、そう思うと疲れがどっと
沸いてきて、亜紀は中央線ホームのベンチに腰掛けた。都内の電車は人が混雑してとても
好きにはなれないが、5分10分単位で電車が来るので待つ必要が少ないのは嬉しいな、と
少しの間何も考えずに、時間を過ごした。
アナウンスで、亜紀の待つホームに電車が来ることが知らされ、立ち上がる。
隣のベンチに目をやると、バッグと一緒に並ぶ紙袋に気がついた。
そういえば、結局受け取ったんだっけ。何が入ってるのか知らない亜紀は、
入り口を止めてあるテープを剥がし紙袋を覗くと、叫んだ。
「駅ナカのシュークリーム!」
運命って変えられるんだな、と、亜紀は少し神様を信じたくなった。
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プロフィール

JUNE

Author:JUNE
JUNE(ジューン、ジュン)
旧PN:十文字貴人
男 4月25日生まれ
血液型:A
好きな事:映画鑑賞、読書、落書き、英語勉強
人間は「人生」においては誰もが素人。だから、焦らず楽しもう!

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