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才能の真偽

14

聖・平原女子高等学院二年生の社会科見学が終了し、四日後である水曜日、
音色は通常の平日と同様に学校に行っていた。音色が在籍する二年B組は、
全八階建て校舎の 下から上へ数え三階目に存在する。
二階から、上に三年、二年、一年の順で 構成されており一階は防犯と生徒達の
管理の都合上、教員達が常駐する職員室や 会議室などが存在している。
二階教室の窓際から校門前に目をやると、花壇が構えており緑化委員の生徒達が植え、
日々世話してる花々が色とりどりに目立っていた。
それは音色以外の生徒には、いつも通りの綺麗な花壇に見えているのだろう。
四日前に、木島のぞみが美術館で襲われた事など知ってる生徒は少なかった。
のぞみは病欠扱いで月曜日から今日まで学校を休んでいる。社会科見学で
事件に巻き込まれた事など知ってる生徒は少なかった。皆無だと言ってもいいかもしれない。
事件による学院の評判の低下を恐れた教員達が、情報の漏洩を最小限に収めた、という
事らしかった。一般的に有名な私立の学校にはよくある話だと音色は聞いた。
ふざけるな、と叫びたかった。
周囲の音が聞こえる。現在は一時間目の休憩時間で、生徒達は二時間目の準備をしている。
二時間目は、松下淳担当の国語だ。
「あれー、無いなあ」教室で一人の生徒が困惑の声を上げる。「セッピーが無い」
「やめときなって。エセジョンにバレたら没収されるよ」
セッピー、とは生徒の間で浸透したセピアインクペンの愛称だ。文房具として
ペンケースに入れておく位なら大した事ではないのだが、中にはペンを授業中に
恍惚とした表情で見つめ続ける女子生徒もおり、教員によっては「授業にならない」と、
ペンを没収する事もあった。授業中に使うのはシャープペンと消しゴムだけで
結構、との建前上の理由だった。
「あなたは彼氏がいるからいいよね。私だって恋したい。何で女子高入っちゃったかな」
「でも、日記とかメモとか字書く時全部セッピーなんて異常だよ」
「さすがにここまで頑張る私を恋愛の神様は見放さないと思ってさ」
「神様が見放さなくても、そんなの見た男子は離れていくと思う」
音色は机の上に二時間目の国語の用意を終え、一人でやはり窓の外を見ていた。
周囲はいつもと何も変わらず、雑談に花を咲かせる生徒達で教室を埋め尽くしている。
想像していたよりは結構落ち着いてるものだな、と思った。小学生の頃、犬を
失った時に比べたら多少精神も成長してるからなのだろうか。ただ、何をしても
つまらないという感じはあった。自分以外のものを俗に感じてしまい、見下しに
近い感情を抱いてしまう。早く学校なんか終わったらいい。こんな所来るより大事な事が
私にはあるのに。
「こ、怖い話なら事前からそう言ってよ!」
音色のいる窓際席から一番遠い位置、教室の入り口付近から悲鳴が上がった。
数人集まって話をしている内の一人が、両耳を抑えて青い顔をしている。 同じクラスの
風紀委員、逢坂優里だ。 「逢坂さんが、最近何か変わった事がないか聞いたんじゃない」
「そんなの゛変わった事″の範囲外!!」
何だ何だ、と集団の外にいた生徒が集まってくる。「何の話?」
「私怖い話好きなんだけど」「また逢坂さんがヒステリック起こしてるの?」
周囲にいた生徒達が、まるでスクープはどこだと匂いを嗅ぎ回る新聞記者の様に
ぞろぞろ集まってきた。机の上に足を組み腰掛けた活発そうな女子が、目の前で
青い顔してる逢坂を尻目に、集まってきた生徒達に目配せし、言った。
「゛目玉男゛の話だよ」
それを聞くと集まってきた中の数人が、ああ、と反応する。
ガラガラと、教室の扉が開く音がした。音の方向に数人の生徒が注目すると、げっ、と
声が重なった。「まだチャイム鳴ってなくない?」一人の生徒が、入ってきた人物に対して不満を吐いた。
教室に入ってきたのは、次の科目、国語を担当する松下淳だった。青いジャージを
着ている。あなたは体育館に行くべきじゃないのか、と生徒の誰もが思う格好をしている。
「授業が必ずチャイム鳴ってから始まると思ったら大間違いなんだよ」
「エセジョン意味わかんないんだけど」
他の生徒達が一斉に松下に対し不満を口にする。松下ははいはい、わかったわかった、
と両手で生徒の意見を抑える様な仕草をした。
「まぁ安心しろ、俺が来たのはいつもより早く授業をしたいからって訳じゃないんだ」
「は?」
状況を把握出来ない生徒達を制止し、顔を窓際に向けて、言った。「一ノ宮」
突然名字を呼ばれた事に驚いて、音色は声の方向に首を曲げた。
松下は少し伸びた角刈りの頭を撫でながら、罰の悪い様に眉を下げ手招きする。
「ちょっと、いいか」

放課後、音色は事務所には向かわず、いつもより長い時間高崎線に揺られた。
途中籠原駅にて車両連結で六分も時間を食われ、少し苛立ちを覚えた。窓から
田んぼが見える。稲がふわふわと風に身を任せている。その上には曇り空が広がっていた。
天気悪いなぁ、と音色は溜め息を吐いた。
深谷駅に着く。初めて降りるその駅の外見は、限りなく東京駅に似ていた。
見た目は赤いレンガで形作られた城そのものだった。エスカレーターで下に下りて
少し周囲を散策するとすぐ傍にコンビニエンスストアを見つけたので入る。漫画雑誌と
お菓子、デザート、栄養ドリンクを買い込んだ。駅周辺のコンビニは営業努力に徹しなくても
客が途絶える事はないらしく、いらっしゃいませの言葉は最後まで聞こえてこなかった。
出入り口付近には高校生だか中学生が数人たむろしている。何人かはそのまま、
線路沿い奥にある 小さなゲームセンターに入っていくのが確認できた。学校で
松下に渡されたメモを 確認しようと、入り口付近のタバコの自販機に寄りかかり
財布の中を物色していると、 残っていた数人の中学生らしき男子に、なんとなく
凝視された気がしたが、 気にせずコンビニを後にした。
そのままロータリーまで歩きタクシーを捕まえると、目的地に向かった。

田宰総合病院は、駅からタクシーで10分ほどで着いた。
深谷の中で一番大きい病院らしく、車が何台も出入りしている。
午後5時過ぎにも関わらず駐車場入り口で、交通整備員が止まることなく、
案内とともにオレンジ色の棒を振っていた。駐輪場を通り抜け、入り口の自動ドアをくぐると、
つんと病院独特の匂いと空気が鼻を突き刺し、音色を緊張させる。
受付で名前と、部屋番号を確認する。408号室、だと教えられたのでエレベーターに乗った。
4人の患者が入っている、共同部屋の塊、その一角に408号室を確認した。
ひょいと首だけで中の様子を伺うと、薄めでつまらなそうに天井を見つめる見覚えのある
顔が目に入り、音色はほっとして口角を上げた。そのまま入ると、靴音に気づいた
その女性が音色を視界に入れた。目を見開き、上半身を軽く起き上がらせる。
「音色? 音色じゃんか!やだ、どうしたの!?」
「えへへ、エセジョンからのぞみが今日から面会解禁だって教えられたから、来ちゃった」
「マジかよー、ずっと寝たきりだったからろくにお風呂も入れてないんだってば」
「そんな事気にしなくてもいいじゃない」
嬉しがりつつも困惑した表情で、髪をかき上げたのぞみの頭には包帯が巻かれている。
心なしか、顔も赤らんでおり体調も万全ではない事は見て分かった。不安を覚えた。
「悪かったって」
「ん?」
「エセジョンがね、のぞみに謝って欲しいって。名誉のためとは言え、学校の生徒に
 真実を話せない事を」
「うちは超お嬢様学校だからね。別にそんな事気にしてないってば」
数日振りにみたのぞみの笑顔に、どうやら嘘は見当たらなかった。そっか、それなら
良いの、と音色も微笑みかける。のぞみがいなかった間の学校で起きた出来事などを
音色はのぞみに話した。まるでダムが決壊し水が溢れ出したかのように、話に花が咲く。
のぞみは、ししし、と笑いながらも目頭に涙が滲んでいるように音色には見えた。
きっと一人きりの病院は寂しかったのだろうな、と心苦しく感じる。
「そっかぁ、マジでいっつも通りなんだね。平和で何よりだなぁ」
「今日なんか逢坂さんがクラスメートの女子に怖い話されてすごい怯えてたよ」
「怖い話?」
「うん。何だっけな・・・目玉男、とか言ってたかな」
「目玉?鼻男じゃなくて?」
「何なの、その何とか男って」
「最近流行ってる都市伝説みたい。道歩いてると前から男の人が息を切らしながら 
 すごいうつむいて歩いてくるんだって。で、見た感じ汗も尋常じゃない位かいてて
 心配になって『大丈夫ですか』と声掛けたら顔を上げた男の顔にありえない位置に
 鼻があったとか。そして、人によっては音色が聞いたみたいに、やっぱり変な所に
 目玉があったり。この部分は安定してないの。別の人なのか、同一人物かも曖昧。
 で、男は顔を見られると青い顔して逃げていくらしい。
 その男を見た人は、ショックで気が狂う、とかそんな話。化け物だって噂もあるね」
「へぇ、こわっ」
「音色あんまり怖そうじゃないけど」
「怖すぎて反応もままならないの」音色は口元だけで笑って見せた。
のぞみが、何だか納得いかないといった面持ちで、音色を見つめてくるので
「あ、これこれ」と病院に行く前にコンビニで買った雑誌や果物を、のぞみに勧めた。
「今週のジャンプ読んでないんでしょ?」
「読んでないけどさー。あまり頭動かすなって言われてて、見てたといえば
 この部屋の天井ばっかりだったし。あやうく天井の、タイル加工パネルに美的センスを
 見出すところだったんだってば」
のぞみは漫画雑誌を音色から受け取ると、ぱらぱらとめくった。そのまま中盤にあった
カラー扉の漫画で動きを止める。オレンジ色の髪をした少年が色とりどりの服装で
モデルのようなポーズで立ってる絵が見えた。これが、のぞみが一番好きな漫画なのかな、
と音色は想像する。カラー扉をめくると、以降は通常通りの白黒で描かれた漫画が始まる。
ページをめくる 指も速度を緩めた。そのまま5ページをめくった所で背景の殆どが
白で構成されたコマをのぞみが凝視して止まった。すると、白の背景に黒い円形の模様が
一つづつ浮かんでくるのが 見え、音色は何事かと驚いた。今の漫画は動くの? 
しかし、のぞみを見ると肩が小刻みに震えている。のぞみは泣き出していた。
見開いたページに浮かんだ黒い模様は、零れ落ちた 彼女の涙だった。
「内田がさ」口を開きながら、音色は涙が滲む顔を隠したいのか、猫背に、さらに
そのまま顔を雑誌にうずめる。
「内田が美術館で私たちを呼び出した時に、言ってた”あの話”ってなんだったの?」
記憶を遡る。ミーネス美術館で、のぞみが失態を犯して担任の内田に呼び出された時、
確かに彼女は音色に「あの話は断ったんですってね」と、表面上は残念そうな、だが妙に
開き直ったような態度で尋ねた事を思い出した。「あれは」音色は窓の外に顔をやる。
「私、芸能事務所からスカウトされたの」
「え」
「今年、新しい事を始めてみようと思って無所属から演劇部に入ったから
 そのまま文化祭でやった演劇の「ロミオとジュリエット」に出演したじゃない? 
 そこに来てた芸能事務所の人が私を気に入ってくれたらしいんだ」
今年に入って、音色は6月に何も部活に入ってない状態から、演劇部に入部していた。
面倒ごとが嫌いで極力目立つようなことを避けてきた音色にとっては突飛な行動で、
さらに優れた容姿のせいか、周囲からも彼女はどうしたんだ?と学校内で多少の騒ぎが
あったことはのぞみも覚えていた。ただ、新入部員の音色は、劇に出演はしたものの、
台詞も二言ほどしかない「街の若い女D」というエキストラに近い役だった。
一般的に、聖・平原女子高等学院はとても名の知れた有名校であるが故に、文化祭の
一般公開ともなると、様々な場所からたくさんの一般参加者が訪れる。そして、演劇に
客として来ていたある芸能関係の人物が劇に出演していた音色を一目見て気に入り、
彼女を女優の道へ誘った。去年も平女の文化祭に演劇を見に来ていて、一人の部員に
目星をつけていたスカウトマンはその部員の成長を見届けた上で今年、スカウトの機会を
狙っていたらしい。今回、初めて出演した、さらにほぼエキストラの音色に出会えたのは
素晴らしい運命だ、とスカウトマンはかなり興奮して音色にラブコールを送った。
役作りが群を抜いている、と。
「でも、断った・・・?」
「うん。言ったでしょ、私にはやりたい事がほかにあるんだ。芸能を
 仕事にするつもりは全く無いもの」
音色は顔を見合わせてくるのぞみに、苦笑いして胸の前で両手を振る。「出来ないよ」
断りはしたものの、大勢の観客が見守った演劇であったために、その出演がきっかけで
困った事に音色は「学校の外」にファンを作ってしまったらしい。
それが、以前のラブレター騒動のきっかけとなってしまったと考えられた。
「ねぇ、もしかしてそのスカウトマンが去年から目をつけていた演劇部員ってさ」
「うん・・・逢坂さんだったらしいの」
音色と同じ二年B組の、風紀委員である逢坂優理は、入学してすぐから演劇部に入り、
技術を磨いてきた正真正銘の演劇部のホープだった。外見も秀でており演技も評判が
良かった為に今年は主演のジュリエットに抜擢され、場合によっては芸能界入りも
夢ではないのではないかと噂もされていた。それが、今回の音色の演劇出演で、
話は流れてしまったらしい。元々、過去の演劇出演で観客から人気があった逢坂は、
今回の件で音色と人気を二分する事となった。
「それが原因で逢坂さんと険悪な雰囲気になっちゃった。私は悲しかった」
「でも、音色断ったじゃんか。怒る理由なくなったんじゃないの」のぞみは唇を尖らせ、反論する。
「私が彼女に気を使って、誘いを断ったと思ってるらしくて。良い印象じゃないみたい。 
 どちらにしろ、今回の騒動が彼女を傷つけたのは確かなんだ。悪い事しちゃった」
のぞみは、いつの間にかマンガ雑誌を脇に置いていた。はぁ、と溜息を漏らした。
「そっか。そっか・・・」
掛け布団の皺を右手人差し指で、なぞりながら話を聞いてうんうん頷いているのぞみの
どこか安心したような顔を見て、音色はやっとその気持ちを理解できた気がした。
親密な関係だと思っていたはずの友人の、「自分が知らない話」の存在に、彼女は
恐怖と孤独を感じていたのではないだろうか。自分だけ、大事な事を知らされてないような
そんな寂しさが、四日前の社会科見学の日、美術館で個人展を見ていた彼女をあんな顔に
させていたのではないだろうか。
会ってなかった時間の分だけ、女子二人の話題は尽きなかったが、気が付くと、
時刻は夜の19時に さしかかっており、窓の向こうに広がる夜空を見て音色は飛び上がった。
椅子がぎぃっと床をこする。
「やだ、もうこんな時間? 面会時間そろそろ終わりだよね。ごめんね
 まだ入院中なのに無理させちゃって。でも、まだ退院の目処は立ってないんだよね」
「あはは、残念ながらね。だから、謝らないでこれからも遊びに来て・・・よ」
「うん、もちろん!」
音色はのぞみと再度の面会の約束をすると、ゆびきりげんまんをした。
絶対また来てよ、と手を振るのぞみに、音色も手を振って応え、病室を後にする。
廊下ですれ違った看護師と目が合い、お辞儀をしながら早歩きで出口へ急ぐ。
場所によっては、電気も小さめな光に変わり、うっすらと周囲を照らしていて、
それが院内の冷たい空気や消毒液の匂いと相まって絶妙な風合いを見せており、
音色は寒気を感じた。本日の面会は終了しました、と書かれた立て札をよけながら
自動ドアを抜けると、タイミングを計ったように鞄の中の携帯電話が振動を伝えてきた。
携帯電話を取り出し、液晶を確認する。着信元は、レイジだ。
「もしもし」
「やぁ、音色こんばんわ。今大丈夫かな」
「うん、平気だけど」
「それは良かった!いい情報が入ったんだよ、事務所に来れるかい?」
「今から?」
「音色の友達、木島のぞみさんだったよね?」
「え、あ、うん。今、ちょうど病院にお見舞いに行ってたところだけど」
「実はね、彼女が襲われた理由の糸口が掴めそうなんだ」

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プロフィール

JUNE

Author:JUNE
JUNE(ジューン、ジュン)
旧PN:十文字貴人
男 4月25日生まれ
血液型:A
好きな事:映画鑑賞、読書、落書き、英語勉強
人間は「人生」においては誰もが素人。だから、焦らず楽しもう!

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