Entries

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)
http://jumonji.blog51.fc2.com/tb.php/561-2b62d3ad

-件のトラックバック

[T5] まとめ【才能の真偽】

18 早朝の冷えた空気が、呼吸するたびに鼻から肺へ移りそのまま頭頂部から足のつま先まで冷気が染み込ん

-件のコメント

コメントの投稿

投稿フォーム
投稿した内容は管理者にだけ閲覧出来ます

才能の真偽

18

 早朝の冷えた空気が、呼吸するたびに鼻から肺へ移りそのまま頭頂部から足のつま先まで
冷気が染み込んでいくように感じる。上を仰ぐと空は青く澄んでいるのに、音色の心は
雲が覆っているようだった。昨日から、ずっとそうだ。
 熊谷駅北口から熊谷駅内を歩き、そのまま南口へと抜ける為にエスカレーターに体を
委ね、降りる。目の前に見えるカフェから男性客が出てくると、開いた自動ドアと一緒に
コーヒーの匂いが音色を迎えた。朝食メニューらしい「モーニングプレートA」、
「モーニングプレートB」の広告ポスターを横目に通り過ぎ、ロータリーに入る。
いつか、自分が社会人になり、一人暮らしをする事があるとしたらあんなカフェで毎日、
朝食を済ませて仕事に行けたら良いのにな、と音色は店頭を横切るたびに思っていた。
 仕事に向かうスーツ姿のサラリーマンやOL、または大学生らしき人達に紛れて、ロータリー
を歩いていく。右手に見える薬局を突っ切って、約10分。3つほど横断歩道を渡って
歩けば、音色が通う「聖・平原女子高等学院」の校門前に辿り着いた。
 校門では毎朝、教師が登校してくる生徒を迎えている。今日は国語教師の松下淳が
いつも通りのジャージ姿でズボンのポケットに左手を突っ込み、登校してくる生徒一人一人に
空いてる右手を振りつつ挨拶していた。
「お、一ノ宮。おはよーさん」
「エセジョン、おはよう」
 音色の姿を確認した松下は、その時いつもより少しぎこちない笑顔で音色を見る。
どうやら、松下はのぞみの事が気がかりらしい、と音色も勘づいた。
「昨日、あのあと病院には寄ったのか」
「はい、もちろん」
「木島は元気だったか」
「まだ体調は万全とは言わないまでも、お見舞いは喜んでくれてました」
「そうか」松下は大きく息を吐きながら、腰に両腕を当て俯き地面に転がる砂利を靴底で
払うと右手で後頭部をさすりながら眉を下げて言った。「少し安心した」

 登校してからというものの、学校内はこれでもかという位に変わり映えのない日常を
淡々と音色に見せつけ、体験させた。放課後になり、それぞれの生徒が部活動や帰宅
するまでがあっという間だったように感じる。教室には数人の生徒しか残っておらず
窓にふと目をやると、少し空も日が落ち始めていた。
 机の横のフックに手を掛けて、そのまま鞄を持ち上げる。芸能事務所からのスカウトの
一件で音色は演劇部、もとい逢坂優理に負い目を感じ、ロミオとジュリエットの出演以来、
部活動にはあまり出席していなかった。今日も、部活動に出るつもりがなかった音色は、
まっすぐ帰宅しようと教室の出口めがけて一歩を踏み出し始める。教卓の前を過ぎると、
前方右側、教室を入って左から二列目の一番前の席の机に、視線を奪われた。
「あ、プリントが置いたままじゃない」
 その机の上には帰りのホームルームで担任の内田から配られたプリント類が剥き出しで
置かれたままになっていた。この席は、今も田宰総合病院で入院している木島のぞみの
席だった。のぞみは視力が非常に悪いらしく常に眼鏡を掛けているが、それでも本人の
希望で一番前の席にしてもらっていた。以前「ここは私のVIP席なんだぜ」と自慢げに話す
のぞみを見て、視力悪いことが自慢になるなんてすごい、と音色は笑った事があった。
 肩に掛けていた自分の鞄を下ろし、中から薄桃色のクリアファイルを出す。その中に
のぞみの机の上に置かれたプリント類の束をまとめてはさんだ。そのうち、のぞみの
お見舞いに行くつもりでいたので、その時に渡そうと思った。
がたんがたんと、軋むような音に驚き音の方向に鼻を向ける。風が強くなってきたらしく
窓ガラスを執拗に揺らしていた。奥に広がる空も夕日が出て紫がかっている。音色は再び
鞄を肩に掛け、足早に教室を出た。静かな教室にゴム靴底の高い摩擦音が響く。
 玄関前で恐る恐る下駄箱を開けて、革靴に履き替えた。ラブレター事件以来、音色は
下駄箱を開けることに苦手意識を抱きつつあったからだ。開ける度に毎回深呼吸をして
半ば、一瞬呼吸を止めるくらいの気負いで下駄箱を開ける。すっかりトラウマになっていた。
ガラスの奥に悠々と広がっていく夕日を確認する。素直に綺麗だなと感動できない
今の自分の状況を、音色は心底残念に感じた。

 「ちょっと、お願い、考え直して」
 音色が下校しようと、平原女子高等学院の校門前まで歩いていたところだった。
近くで女性の声が聞こえてきた。その声色は叫びというよりは押し殺されており、焦りと
不安が入り混じっているように感じる。必死さがありありと伝わってくる。
「こんな事になるなんて、僕らは思っていなかったんだ!」
 次は男の声も聞こえた。子供の声だった。少し怒りを含んだ感じで、女性の声とは
正反対にそれははっきりとした「叫び」だった。音色は不安を覚えた。このまま帰るには
校門を出なければいけないが、校門を出た先には人が口論をしている。外は暗くなりかけている。
トラブルに巻き込まれるのは、今は避けたかった。
 誰が口論しているのだろう、そう思い校門の前を覗いてみると、音色の目に飛び込んできたのは
意外にも顔を知っている人物だった。
「逢坂さん?」
 声をかける音色に、その場にいた人間の視線が一気に集まった。
声を聞いていただけではわからなかったが、逢坂優理の他に男の子が3人いた。見た感じで
中学生位だろうな、と音色は察する。その時すぐにはある異変に音色は気付かなかった。
虫の居所が悪いといった面持ちの逢坂とは逆に、中学生の男子三人組の表情は変に明るくなった。
一人は、隣の男子の服を掴んで顔を見合わせ音色をじろじろ眺め、もう一人は照れたような表情で
音色と地面とを交互に見ている。逢坂と、男子生徒の醸し出す温度差に凄く違和感を覚えた
音色は、そこで初めて男子生徒達に対して、一つの感想を抱いた。
「ねぇ君たち。私と会ったことあるよね??」
「えっ、いや、えっと」
 三人はどう切り出して良いのか、困惑した様子でお互いの顔を見合わせている。
音色は、以前彼らに会っていた。ミーネス美術館で頭を打たれ、田宰総合病院に入院している
木島のぞみをお見舞いに行く際に深谷駅付近のコンビニで買い物をした。その時、外で
音色をじろじろ見ていた男子中学生がいたのだ。思い返すと、まさにその時音色を見ていた
メンバーの男子が目の前にいる男子だった。
「あの時の子たちだよね? ほら、深谷駅近くのコンビニ前にいたでしょ」
 音色がそう言うと三人も相槌を打った。
「でもなんで、その子たちと逢坂さんがここで言い合いしてるの?」
 音色が逢坂の方に鼻先を向ける。逢坂は自分の名前にびくっと反応をして、視線をわざと
音色に合わせない。逢坂はここから早く逃げ出したそうな表情をしていた。
何も答えない逢坂を尻目に、沈黙を破ったのは男子中学生三人組のうちの一人だった。
痩せ型で眼鏡を掛けており、髪の毛が少し伸びきった感じの子だった。
「ごめんなさい!」
 開口一番でその生徒から出た台詞は、あまりにも素直な謝罪の言葉だった。
「どういう事なの?」音色は片眉を下げて、生徒に聞く。「私君に悪い事された覚えないよ」
「て、手紙」
「手紙?」
 生徒が言うと、そのまま生徒達と視線は逢坂に移り、そして音色へと戻る。
「僕たち一ノ宮さんのファンで、前にファンレターを書いたんです」
「たくさん書いたんだよなっ、文化祭で劇見てからっ」眼鏡の生徒の隣の、真ん丸な顔をした
小太り気味の生徒が少し興奮気味に眼鏡の子を見て、言う。
 文化祭、劇、ファンレター。それら三つのキーワードが音色の頭を駆け巡った。
そして、もう一人背の小さく坊主頭の生徒も、言った。
「文化祭での、ロミオとジュリエットでお姉ちゃんのファンになって僕ら、他の友達と
話し合ってたくさん手紙を書いたんです。でも、じゃあこの手紙をどうしたらお姉ちゃんに
読んで貰えるのか、って思って。ある日、学校終わってからもう一度平女に来たんです。
でも、入っていいかどうかわからなくて手紙だけ持って校門周辺をうろうろしていたんだけど」
 坊主頭の男子は逢坂を見る。「困っていた時に、ジュリエット役の逢坂さんに会ったんです」
音色も逢坂優理を見る。逢坂優理は両手で顔を覆り、ため息をついた。口を開く。
「その子たちが困っていたようだから、私が声をかけたの。そしたら文化祭の劇での役者に
ファンレターを書いたって聞いて。一応はあの劇は主役はジュリエット役の私だし、
すごく嬉しくて、その手紙を私が渡してあげるって言ったのよ」俯いていた逢坂優理は悲しげな
表情で天を仰いで、続ける。「でも彼らからもらったコンビニの袋一杯のファンレターは、全部、
一ノ宮さん。あなた宛てのものだった」音色は、逢坂優理を見る。口元は笑っていたが、
目は淀んでいた。「全部。全部よ」
「あの、漫画みたいな量の手紙はそういうことだったんだ」
 自分の下駄箱に入っていた大量の手紙を、音色は自分で読んでいなかった。内容を知っているのは
手紙を拾い集めて、たまたま木島のぞみがその場で音読したものだけで、他の手紙の内容は音色は
把握していない。もし、もし中身を確認していれば、それが「劇の感想」を含めた音色への
ファンレターだったという事をわかっていたのかもしれなかった。
「責任逃れをするつもりはないわ。この学校は女子高で、教師以外は男子は基本禁制。
もし、このままたくさんの男性からの手紙が一ノ宮さんの下駄箱に入っていることが学校中、または
教師たちに知れれば、あなたが非難されるかもしれないって事も、心の奥では予想できたはず。
私は、彼らの願いを受け入れて代行するふりをして、一ノ宮さんがこの手紙で少しは困れば
いいのにって思っていたのかもね。だって、あの劇でジュリエットを勝ち取ったのは私なのに。
主役を押しのけてあなたにしかファンレターが来ないなんて、凄く悔しくて悲しかったから。
でもね、あんなに強くあなたが非難されるなんて思わなかったの。これはほんと。
ごめんなさい、私、やりすぎた」
 謝る逢坂優理に、すぐに男子中学生三人組も「ごめんなさい」と謝罪を続ける。
「ちょ、ちょっと4人揃って!やめてよっ」
 自分に対して頭を下げる人間四人を目の当たりにし、狼狽した音色は「顔を上げて」と
歩み寄った。男子中学生三人に笑いかけて、励ます。
「やっと、わかった。うん、手紙をくれた事今ではとても嬉しく思うよ。どうもありがとね。
ちょっと実は訳あってあの手紙をまだ読んでないんだ。時間見つけて今度ゆっくり読ませて貰うね」
「あ、あのう!あの劇、僕らほんと感動しました。一ノ宮さんは来年は劇に出ないんですか?」
 眼鏡の子が、眼鏡の奥の小さな目をキラキラ輝かせて、音色に尋ねる。続けて逢坂優理も尋ねた。
「一ノ宮さん、芸能界スカウトの話もあったでしょ? もう私に気を使う必要なんてないよ?」
 スカウト!すげー!と、逢坂優理の話を聞いて三人の男子が一堂に声を上げる。
音色は慌てて、胸の前で両手を交差させ拒否の意思表示をしながら、言った。
「ううん、スカウトは本当に逢坂さんに気を使ったとかそういう理由で断ったんじゃないの。
私、もう将来何をしたいか夢があるんだ。それは芸能界とかそういうんじゃなくて。
今、学校生活でさえその夢の糧となるように日々を生きてる。実は演劇部も夢に近づくための
努力の一環だった。でも、ごめんね。私来年の文化祭にはもう劇に参加はしないかも」
「芸能界ではない、演技力必要な仕事?わからないな」首を傾げる逢坂優理。
「ふふ、なんでしょう?秘密」音色は、幸せそうに笑った。

 男子中学生三人組を、先に見送った音色と逢坂優理は、改札に入らず逢坂優理の乗る
上り電車の時間まで二人で時間を過ごしていた。逢坂は上り電車で熊谷を出るのだ。
「待ってなくてもいいのに」逢坂は、気まずそうに言う。
「迷惑なら、先に帰るよ」音色は悲しげな顔で、逢坂を見て言う。
「迷惑じゃ、ないけど」
 口をすぼめる逢坂優理を、音色は笑って見返した。
館内に駅員のアナウンスが響いた。もうあと数分で、逢坂優理の乗る高崎線上野行きが熊谷に
到着するとの事だった。アナウンスを聞いて、逢坂優理はぐぐっと両腕を上げて伸びをする。
「例えばさ、アイドルになりたくてオーディションに応募した子が一緒に友達についてきて
もらって。応募した本人はオーディションで不合格だったのに、付き添った友達がその場で
スカウトを直に受けたりとかってよく聞く話だよね。人生ってうまくいかない」
 逢坂優理は笑いながら、「ずるいよ」と手提げ鞄を振って、軽く音色に当てる様な仕草をする。
「逢坂さんはこれからたっくさんチャンスあると思うよ。現に演劇部のホープだし」言いながら
音色は逢坂の顔に自分の顔を近づけて、言った。「ほら、こんなに美人さんだし」
「な」いきなりの音色の発言に顔を真っ赤にして、その場からのけぞる逢坂。「からかわないでよ!」
音色は、くすくす笑った。「困ってる顔もやっぱり綺麗だよね!私がスカウトしたいくらい」
「で、電車来るから行かないと」
 逢坂優理は改札に向かって、定期入れを片手に歩き始める。
「うん。気を付けて帰ってね」
「あのさ、もう一度謝っておく。今回はごめんね」
「もう、いいのに。そんなに気が済まないなら、今度何か困った時にでも助けてもらおうっかな」
「困った時?」
「そ」
「うん、いいよ」
 じゃあね、と改札を通ると、逢坂優理は上り方面へのホームへ姿を消した。
音色は、その姿が無くなるまで改札の外から見守っていた。そして、今も入院生活を続けてるだろう
木島のぞみを事を思い浮かべる。
「のぞみ、まだあの手紙持ってるかなぁ。読みたいって言ったら驚くだろうな」
しししっと嬉しそうな顔をして、手紙を差し出す彼女の姿が目に浮かぶ。なあんだ、やっぱ
気になってたんじゃないですかぁ、とのぞみの明るい声も聞こえてくるようだった。
スポンサーサイト
この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)
http://jumonji.blog51.fc2.com/tb.php/561-2b62d3ad

1件のトラックバック

[T5] まとめ【才能の真偽】

18 早朝の冷えた空気が、呼吸するたびに鼻から肺へ移りそのまま頭頂部から足のつま先まで冷気が染み込ん

0件のコメント

コメントの投稿

投稿フォーム
投稿した内容は管理者にだけ閲覧出来ます

Appendix

プロフィール

JUNE

Author:JUNE
JUNE(ジューン、ジュン)
旧PN:十文字貴人
男 4月25日生まれ
血液型:A
好きな事:映画鑑賞、読書、落書き、英語勉強
人間は「人生」においては誰もが素人。だから、焦らず楽しもう!

<>

カテゴリー

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。