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LIVE

こんばんわ、JUNEです!
前回の日記で告知した小林楓さんのワンマンライブ、行ってきましたー!
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西荻窪のTerraという素敵なライブバーでのライブでした。
ライブ開始が19:30って事で30分前から入って、もうすぐに目の前にボーカルが来るだろう
位置のテーブルでドキドキしながらハイネケンビールをちまちま飲んで待ってました(笑。

まずはバンドメンバーがジャムしてからの、本人登場。楓ちゃんかっこよかったー!!
ライブは2部構成だったんだけど、俺も緊張してたんだろうハイネケンが膀胱にいつも
以上に存在を主張してきてすっごいトイレ近かった(笑。
俺はLIVEに一人で行ったのです。なので座ってた二人用のテーブルの椅子が1つ空いてて
ライブ中にいきなり、空いた椅子の上のバッグをおもむろにテーブルに置き直して俺の隣に座る楓さん。
めっちゃびっくりしたけど、最っ高だったよー!!一人で来てよかった(笑。

そして2部を待ってたら、店員さんにドリンクをすすめられたのでアイスコーヒーを頼んだんだけど
次は2部中にアイスコーヒーが俺の膀胱に主張を始めるから困った。

LIVEは歌の合間に小林楓さんのMCと、バンドメンバーの掛け合いで進んでいく実に
ラフで朗らかなムード。新潟を思って作った曲とか、埼玉県民ではあるが新潟大ファンの俺でも
なんだか聞いてて胸に響くものがありましたね。次はぜひ、みかづきのイタリアンを題材に
一曲作ってほしいですね。ごくぶとのやきそばがああああみたいな(何それ なんなら作詞するよ!(ドヤ

LIVEにはたくさんお客さんがいて、小林楓さんのお友達もいたみたいで
いっぱい友達がいるんだなー人望ってすごいなーとか思いながら会場をあとにしました。
10年前にはなかなか知ることができなかった彼女の顔ですね。素敵な時間でした。

俺は本当に色々な人から夢をもらって、今生きてるんだなって思います。
歌手である小林楓さんには歌で前に進む意思をもらって、漫画家のシヒラ竜也先生には漫画で創作を
仕事にするための気負いや考え方を学び、周囲の友達には一緒にいる喜びをもらってる。
彼らがいるから、俺がいるって思います。みんな大好きです。
俺もいろいろ頑張らんといけないです。JUNEみたいな友達がいるというのが恥ずかしいって思われないようにね。

なお、小林楓さんの次のワンマンなど、わかり次第、これからも当ブログで告知していこうと思ってます。
一緒に応援していただけたら嬉しいです♪

"EXCITEMENT"

早いものでもう3月ですよー。こんにちわ、JUNEです。

今月3月21日に、現在都内で歌手活動をしている小林楓さんのワンマンライブがあります。
 実は小林楓さんは、絵の投稿を通じて知り合って仲良くして頂いてた古くからのお友達なのです。
一時期連絡が取れなかった時期があって、数年前久しぶりに連絡が取れて近況を伺ったら
「今はカナダにいて歌手やってるよ」って聞いてすごく驚いたことを今でも覚えています。
 お互い高校生でJUNEはがむしゃらに絵を描くアホだったのに・・・君は歌手かー、と(笑。

当時、歌手活動をしてるって聞いてからずっとJUNEは彼女を応援していたのです。が、さすがに
カナダは遠いなーとか思っていたら3年のカナダでの武者修行を終え、去年日本に帰国したと。
しかも、彼女の故郷である新潟ではなく、東京!ってのも今年知った(ぉ
 これはもう、全身全霊で応援できるじゃん!って訳で当ブログでも告知させて頂くことにしました!
本人に許可取って無いけどな・・・うん、更新したらメールするさ・・・。


小林楓ワンマンライブ

3月21日(水)
@西荻窪Terra

http://www.wood-corp.com/terra/

open/18:30
start/19:30

entry/\2,500(ドリンク代別)

小林楓ブログ:have to Be
http://ameblo.jp/kaedekobayashi/


今回の日記のタイトルでも書いた"EXCITEMENT"。
これ、小林楓さんのブログを読むと分かるんですけど、今回のライブのコンセプトなんだって。
 感情とか気持ちを込めて、伝えるってこと・・・この場合は歌なんだけど、
これはJUNEの場合、絵でも同じことが言えるんだよね。

 絵を描くって作業自体は、実に地味だと思うんだけど、その反面描いてる人は
かなりのEXCITEMENTを感じてたりするんです。JUNEも描きたい事、伝えたい事が絶えずあって、
それこそ20年位絵を描いてきましたが自分の頭の中のイメージを、描きたいように描けそうだ、
伝えたい事を頭に存在してるイメージのままで上手く紙の上で表現しきれるな、って時に
感じてるEXCITEMENTは計り知れなかったりします。脳内麻薬どくどくするんだ。
 そして、さらに面白いのはその「楽しんで生み出した」作品を見た人にも「楽しんだ」ってコトが
伝わる瞬間も確かにあるという事。好きな漫画家さんの単行本の新刊表紙を、書店で見て
「うわ、すっげーな」
って思ったこと、ありますよね? それって熱意が伝わってるって事だ、描き手のね!


 絵に対する表現で「迷いの無い線」って言葉があるけど、小林楓さんの歌声に対する
JUNEの感想も、絵描きとしての感性で重ね合わせて言うなら「迷いの無い音色」だと思っています。
ごまかしなどが無い、頭に、体に、心に、1ミリのブレも無くストレートにぶつかってくる歌声なのです。
 友人として、いちファンとしてこれからもJUNEの出来る限りのやりかたで彼女の夢の
手伝いが出来たらいいな、と思っています。みなさんも、一緒に応援してくだされば嬉しいです!!!



才能の真偽

17


「何かの間違いよ、こんなの」
目の前で起こっている事柄の、あまりの事態に、音色は自分で発した言葉にさえ気づかずにいた。
さきほどまで、木島のぞみとの久しぶりの面会で緩んでいた顔と気持ちは一瞬で引きつり、
精神の拠り所を探すかのように、瞳は目の前の事態を捉えつつも左右に揺れている。
 
 のぞみとの面会の後、召集の電話により事務所に戻ってきた音色を待ち受けていたのは、一本の
ビデオテープを片手に微笑むレイジだった。
「ミーネス美術館に行ってきたよ。館長は不在だったけど、菅沼というスタッフがいて事件当時の
現場を収めた防犯カメラの映像を貸して貰えた」
 一緒に観よう、と言うと音色が腰を下ろす間もなく、ビデオデッキにレイジはテープを押し込んだ。
音色はソファーに鞄を放り、腰を下ろす。事務所内の液晶テレビは一瞬画面をグレーに変えたのち、
ミーネス美術館の廊下を映し出した。
 天井に設置されたカメラが見下ろしているのは、インフォメーションプレイスのカウンターを
奥に、そのカウンターの横にあるスタッフ通用口の扉を手前にした通路。
 スタッフ通用口とは木製の重厚な扉に銀のノブが付いている、木島のぞみが襲われた現場となった、
あの場所である。カメラの見据える奥には、館内を歩く灰色の制服を着た平女の姿も時折映っている。
正真正銘、ミーネス美術館で平女の生徒達が社会化見学をしている最中の映像である事に間違いなか
った。これからまもなく、画面の中で起こるであろう自分が経験した事件を、第三者の視点から
確認する事になる。それを実感し、音色は口元を右手で覆った。
「午前中の映像はいいよね?早送りしよう」
 レイジがテーブルの上のリモコンに手を掛ける。音色は問題の映像を拒否したい衝動に駆られるが
そんな事を言い出せるはずもなく、リモコンを持つレイジの右腕を目で追うだけだ。
 キュルキュル、と高い音を発しながら画面は事態を足早に映し始めた。通路の奥に映る平女の
生徒達の姿も行動が早まっている。画面右下に表示された時刻が、PM00:00を越える。
 画面の中の時間は午後に突入し、生徒達の姿はまだらになったあと、少しの間画面から消えた。
レイジが目配せをしてくるので「お昼休憩が入ったの」と、音色が言うと、合点とでも言うように
頭を上下に揺らし、レイジは再び画面に顔を向けた。
 絶えず早送りされる映像。当日は平女の生徒以外にも、一般客も居たので、インフォメーション
プレイス自体には生徒よりは一般客の問い合わせの方が目立っており、ビデオにはちらほらと
一般客の姿も映っていた。特に昼休憩の時間帯にインフォメーションプレイスに顔を出すのは
一般客のみだった。少しすると、休憩を終えたのか、または休憩中ではあるが食事を終え、行動を
再開したらしい生徒の姿が見え始める。
 音色は、緊張からかソファーの上で無意識に体育座りになり、両膝を抱える形になっていた。
ビデオの中の時刻は午後の4時を過ぎた頃を視聴者に知らせている。
「そろそろかな」レイジが呟いた。テーブルの上のリモコンを素早く持ち上げると、再生ボタンを押した。
映像は十数分ぶりに、通常再生を始める。画面の中の時間はゆったりと流れ始め、また、映像からは
平女の姿は消えていった。時間帯から考えると、生徒全員がロビーで待機している頃だ。
 そして、その時はついに訪れた。
 画面の奥から二人の女子生徒が歩いてくる。片腕で額を押さえたショートカットの生徒と、
その生徒を抱えて一歩一歩ゆっくり前へと導くように付き添うセミロングの生徒。
木島のぞみと音色だ。
音色は、映像を見ながら荒くなる呼吸を必死に抑えていた。インフォメーションプレイスの
カウンターには人が見当たらず、仕方なくそこを通り過ぎ、スタッフ通用口の前に立つ
自分達の姿を、凝視する。
 声を掛けても反応がなく、仕方なく通用口の扉に手を掛ける音色。
そして、ドアノブをひねると何の抵抗もなく開く扉。
中の様子を伺うと、瞬間的に体を何かから避ける様に、音色はその場所から一歩後ろに下がった。
その後、事務所内の空気はしんと静まる。
その異様な雰囲気は、その場に居た人間二人を完全に飲み込んだ。
状況を理解しようと映像を見ていたのに、謎が二人をさらに真実から遠ざけるようだった。
音色は画面を見ている。
レイジは、画面と音色に視線をいったりきたりしている。
 最初に何とか言葉を発したのは、当時社会科見学に参加しておらず、今見た映像でしか事件の
概要を判断できない予備知識皆無の、レイジだった。
「聞いていた話と違う、ね。ビデオには、この映像には犯人が映ってない。映ってるのは音色と
その後ろで倒れたのぞみちゃんだけだ」
 そう、このビデオの映像に映っていたのは確かに、当時音色が遭遇したあの社会科見学での
木島のぞみ襲撃事件に他ならなかったが、そこに事件は映っていなかったのだ。いたはずの犯人も、
その犯行現場もその映像には一切映っていなかった。誰に接する間もないうちに、映像の中の
木島のぞみは押さえていた額から出血して、倒れたのだ。一人で。
犯人を目撃していたはずの、音色の目の前で。

 「音色が嘘を言ってるなんて事はないって、僕は分かってるから」
 映像を見た後、一言だけ力なく呟いたまま黙り呆然とうつむく音色を見て、レイジはそう声を掛けた。
音色は反応もままならなかった。時々、ふらふらと首を左右に振ったり、両手で顔を覆ったり、
落ちつかない。レイジはこのビデオを借りた時の事、つまりミーネス美術館へ行った時の事を
振り返った。美術館の館長である田仲という男は出張により不在らしく、代わりに社会科見学の
日に出勤していた菅沼という女性スタッフに会った。しかし、終始表情には覇気がなくうつろで、
大した話を聞かせてはくれなかった。
 この事件の話は警察の人間に執拗に何度も聞かれ、知る限りで答えてきたのだろう。結局、最後には
うんざりした顔で、菅沼はこのビデオテープをレイジに渡してきた。突き出してきた、とも言える。
 既に証拠品として、警察にこの映像を提出した後だと言う。今レイジの元にあるテープは、警察に
わたったマスターテープを複製したものである、という話だった。
つまり、自分達より早く警察の人間はこの映像を見ているに違いなかった。
この、有り得ない映像が収められたテープを、だ。
彼らはこの映像を見てどんな事を思ったのか、レイジは想像するしかなかった。
「レイジは電話で言ってた。のぞみが襲われた事には理由があるって」
 いきなり口を開いた音色に驚き、レイジは音色の方に鼻先を向ける。「教えてよ」と言う音色に
レイジは、顎を引いた。一時停止されていたテレビの電源を切る。
「のぞみちゃんは、犠牲になったんだと思う」
「犠牲?何の?」
「彼女は、彼女自身には全く関係のない陰謀に巻き込まれてしまったんだ。それ以外に彼女が
命を狙われる理由なんてないからね。僕の推理が正しければ、本来ならあの時命を狙われて
いたのは」レイジは既に電源を落とした液晶テレビを指差して、言った。「ミーネス美術館の館長、田仲啓司だよ」
 えっ、と音色は声を上げる。
「どういうこと?館長さんは誰かに恨みを買っているって事?」
「今、と言うよりは過去に買ったんじゃないかな」レイジは顎に手を当てて、目を伏せた。どういう風に
言えばいいか、頭を整理し始める。「彼が、美術館の館長になる前にしていた仕事に、その理由があるはずだ」
 音色も、社会科見学の時を思い出してみる。館長の顔は、朝ロビーに生徒全員で集まって挨拶を
聞いた時に見た時にしか記憶がなかった。線が細い華奢な体つきに、細い顔。オールバックに
整えられた白髪交じりの髪、人から恨みを買うことなんて、一生無さそうな人当たりの良い
落ち着いた中年男性に見えた。
「優しそうな人に見えた」音色は、思ったままを口に出した。
 そうか、とレイジが答える。そしてレイジはソファーから腰を上げると、自分の机に向かった。
机の上に置いてあったハードカバーの単行本を片手に、表紙を指差した。レイジの持つ本の表紙には
『真人間の証明・霧宮光修』とあった。
「美術館の館長になる前は栄新社の社員だったらしいんだ、田仲は」
 音色は目を見開く。そして、尋ねた。
「じゃあ、もしかして田仲さんは『文衆』で編集を?死んだ霧宮さんと接点があったって事?」
 いや、と短く否定をして本をテーブルに置くと、レイジは腕を組んだ。「そこまでは今はまだわかってない。
ただ、その期間に何らかの恨みを買っていた可能性は高いと思う」
「もし、私の言う様に編集として霧宮さんと繋がっていたとしたら、どうなるかな」と、音色。
 腕を組んで、レイジは天井を見上げる。その状況を想像してみる。うーん、と唸って呟いた。
「作家と編集の立場で対立し、結果作家から恨みを買っていた可能性か」
 木島のぞみは襲撃に遭い大怪我を負った。しかし、その一部始終を収めた映像にのぞみを
襲ったはずの人物の姿は映っていない。何故、そこに真実は映っていなかったのか。
 では考えを違う方向からするとどうか。もし、そこに映っていたものこそが何のブレもない
見たままの真実だとしたら、その結論はどうなるのか。
「ちょ、ちょっと。やめてよレイ」音色は耳を両手で覆う仕草をする。「あんた、自分が一番嫌いな
類の話をしようとしてる訳じゃないよね」
「そうだね、もし今音色が同じ事を考えてるなら、僕の代わりに言って欲しい位だよ」
 レイジも、口の端を少し引き上げながら言った。想定外の仮定に困惑を隠しきれないと
言った面持ちだ。音色は、周囲を見渡す。目の前にあるテーブルにさっきレイジが置いた
「真人間の証明」があった。
それを静かに持ち上げると、ぱらぱらと中を開いて、そのままぱたんと閉じた。片眉を上げて、言う。
「のぞみを、いいえ、何らかの恨みを持って館長を襲おうとしたのは」両手で本を持ったまま、
表紙で顔を隠した。「霧宮光修の亡霊ね!」そしてすかさず、なんちゃって、とおどけた。
あはは、と乾いた笑い声を上げると、音色は自分の言葉を反芻する。
そして表紙の横から顔を覗かせて、言った。
「ねえ、嘘って言ってよ」 

 初めて行った依頼人宅の予想以上の豪邸ぶりに、レイジは目を見張った。
ミーネス美術館の防犯カメラの映像を確認した翌日である今日、面談すべく渋谷区にある
霧宮しずるの邸宅に足を運んできたのだった。以前、熊谷市の喫茶店で会った時以来だから、
霧宮しずると話をするのは二度目になる。 
 既に電話でアポは取っていたに関わらず、大層な門構えに萎縮してレイジはインターホンを押すのを
躊躇ってしまっていた。インターホンの上にはカメラも備えてあり、いつも通りに黒スーツに黒ハットで
変装した自分を、普段以上に意識してしまう。帽子を右腕で押さえると気持ち深めに被りなおした。
 勇気を出して、えいとインターホンを押すと、マイクが機能を始めたらしくブツっと雑音が聞こえた。
「あ、あの」レイジは少しパニックになる。
「ご無沙汰しております、レイジさんですね。どうぞ、中庭の方へお進み下さい」
 カメラでレイジの姿を確認したらしいしずるは、何の問題もなくあっさりとレイジを迎え入れた。
既に一度会って話をしているので、よく考えてみたら当たり前だ。レイジは胸を撫で下ろした。
門を開けて中に進む。広い中庭だ。向かって右奥には小さな池が目に入った。岩で縁取られた
優雅な物だった。
「わざわざ、こんな遠い所までご足労をお掛けしてすみません」
 声のした方に目を向けると、霧宮しずるの姿があった。薄いピンクのワンピースに、べーシュの
ショート丈ジャケットを羽織っている。レイジの居る位置まで小走りで近づいてくる。
揺れる黒い前髪にさえ品があった。
「いえいえ、とんでもないです。お久しぶりですね」レイジは右手で帽子を外して、挨拶した。
「さぁ、二時間も電車の旅でお疲れでしょう。どうぞ、こちらです」
 玄関へと案内される。靴を脱ぎ、言われるがまま、レイジはしずるの後についていく。
屋敷内は、外観からも分かるように一般の民家とは違って随分広さがあり、いくつかの部屋を
通り過ぎた後にどうやら客室と思われる部屋に辿り着いた。レイジは部屋に入るなり、頭を大きく
動かしてその新鮮味溢れる室内を眺めてしまう。後ろに居たしずるの口から控えめに笑い声が聞こえた。
「何か珍しい物でもありましたか?」
「僕には玄関入ってから、この部屋に着くまで珍しいものしか目に入りませんでしたよ」
 お恥ずかしい、と言ってレイジは被っていた帽子を外す。しずるに勧められたまま、ソファに
腰を下ろした。
「実は見た目ほど、高価な物は置いてないんですよ。主人は原稿を執筆する時に書斎に篭りっきり
ですし、娯楽もあまり知らなかったようですが、テレビを見る為に居間にいる事さえ少なかったので
部屋の内装には何も言ってこなくて。そうなると、やっぱり自分が生活しやすいように色々置いちゃうんですね」
 そう言うと、しずるは客室に軽く目を向けた。つられてレイジもしずるの視線を追う。
しずるはそのまま、部屋の奥に姿を消した。
 客室には、白人の少女が描かれた絵画の入った額が壁に、神話の一場面を思い出すような
ペガサスの置物が戸棚に、そしてテーブルの上には銀の小さい入れ物二つが確認できる。
気になって、銀の入れ物に手を掛けてみる。
 二つある内の一つには角砂糖、もう一つにはミルクが入っていた。天井を眺めると、絵画のある壁の
対面側には鏡面加工のシルバーの掛け時計も掛かっている。白い陶器で形作られた天使が二人で
時計盤を支えあっているデザインだ。ホワイトと淡いべーシュで成り立つ部屋の雰囲気に完全に
マッチしている。
 部屋の奥からしずるが姿を見せた。
「あ、すみません」レイジはしずるから紅茶の注がれたカップを受け取る。「ごちゃごちゃし過ぎず、
かと言って殺風景さも感じさせない。適度なチョイスです。僕はアンティークとか雑貨には全くもって
疎いんですけど、貴女のセンスの良さは素人目でも分かる」
 しずるもレイジの向かいのソファに腰を下ろす。
「ふふ、レイジさん。女性の扱いがお上手なのね」
 とんでもない、女性や子供なんて大の苦手だし寧ろ早く事務所に戻りたい気分だ、とは言える訳もなく
レイジは水浴びした後に水気を切る犬のように、ぶんぶんと頭を振って弁解した。しずるは小さく笑う。
「でも、大学時代からの友人とかに『しずるって見る目はあるよね』と、よく言われてました。
嬉しいけど、少し照れますよね」
 そう言って頬を赤く染めるしずるを見て、貴女こそ男の扱いに詳しいんじゃないのかとレイジは
聞きたくなった。
「あっ、お飲み物熱い内にどうぞ。少し緊張されてると思ってハーブティー淹れました。
きっと落ち着くと思いますよ」
 そう言って、微笑みかけるしずるを見て、貴女こそ男の扱いに詳しいんじゃないのかとレイジは
聞きたくなった。
ハーブティーを一口含んだ。レイジは本来の、霧宮邸訪問の目的を思い出す。
「現在の捜査の進行状況は、謎に次ぐ謎の連続で、真実は依然見えてはいない状態です。
正直に言えば、今の所警察の捜査通りに霧宮さんの死因は薬物の摂取によるものという線は揺ぎない。
自殺という結論が濃厚、だとは思いますね」
微笑みを消して、レイジの言葉にしずるは耳を傾ける。レイジは続けた。
「ただ、そこで問題となるのはやはり霧宮さんが何故自殺に至ったのか、その理由でしょう」
「私には分かりません」
「ええ、そうでしょうね。彼がその理由をも墓場にまで持っていってしまいましたから。
でも、業界の中ではその理由とやらに予想はついてるみたいです」
「えっ」しずるは少し前のめりにレイジの顔を伺った。「なんなんですか」
「スランプですよ。書けなかったのでは、と」
「か、書けなかった」
「そうです。作家としてなら実にシンプルな答えだとは思います。作品を1つ、まぐれでヒットを
出してしまった作家が、次の作品を中々書き上げられずに苦しんで、結果」
「そんな!失礼な事を」間髪いれずに、レイジの言葉を遮る様に発言するしずる。レイジは胸の前に
両腕を壁を作るように掲げた。
「いえ、そういう推論が出ていると言う話で、私の考えではありませんよ」
 口元に手をやり眉根を寄せると、しずるは俯いて、すみません、とつぶやいた。
客室内は沈黙が続いた。ついにはちまちま飲んでいたハーブティーがカップからなくなってしまい、
レイジは手持ち無沙汰になる。しずるは、肩を震わせている。警察から聞いていた疑わしい
「結果」が今回もやはり覆らなかった事に落胆し、涙を流している。鼻を啜る音が室内に響き始めた。
「我々は誠心誠意、しずるさんの為に動いています。旦那さんの死の真相、さらにその死にまつわる
様々な事柄。真実や嘘がどろどろに混ざった状態で、藁をも掴む思いで、調べているんです」
 俯いたままのしずるの肩に手を置くレイジ、しずるは涙を目に浮かべてレイジの顔を伺うしかない。
「この事件は、背景に想像できないような真実が待ち構えているような気がしてならないんです。
しずるさん、真実は何のために存在するか、ご存知でしょうか」
「真実」そう呟くが、そこから先に継ぐ言葉が出ずしずるは首を振った。
「真実は」レイジ、しずるの肩を両手で触れ、続ける。「いつか、明らかになるために存在するのですよ」
 そうですね、とその場を離れ、先ほど座っていたソファに体を戻すと、しずるを見て顎を引いた。
「メビウスの輪、と呼ばれるものをご存知ですか。細長い短冊形に切られた紙の、片方を
半回転ひねってもう片方の端と接着して作られた輪の事を、そう呼びます。その輪の表面を指で
なぞっていくと、表だった面が裏になってまた表に戻ってくる。つまり、メビウスの輪には
表も裏も存在しないんです」
 指を両手でひねって、メビウスの輪を空中で作るレイジをしずるは、不安そうな顔で見つめている。
「それが、僕の事務所の名前の由来ですよ。真実を突き止める、と言う覚悟と責任を体現する為に
メビウス、と名付けました。あなたはただ、私どもを信頼して下さい。
何も隠さずに全てを教えて下さい。そうすればあなたが今、本当に知りたい事をきっと
お披露目できる日が訪れるはずです」
「ほ、本当に私が知りたい事」
 しずるは、少し前のめりにソファから上半身を離すと、肩を上下に激しく動かしレイジが次に
言う言葉を待つような表情で、見つめた。しん、と静まった客室にカチンと刺激音がなった後、
オルゴールの音色が響く。シルバーの掛け時計の文字盤を支える天使が左右に揺れ、
二人に午後三時を知らせた。そして、レイジが口を開いた。
「霧宮光修先生。彼の、才能の真偽ですよ。しずるさん」

This is trial.

 人生とはなんだろうか、と考えると、
周囲の人をどれだけ大切にしてあげられるかの試練なんじゃないかなと思います。
前回の小説に登場した瀬呂崎は「人生に意味なんてない」って笑いますが、
もちろんそれも個人の意見ですよね。

 でも、大きな意味で言えばこの世界に出会いはあっても別れはないんじゃないかって
そう思うんですよ。別れ、と言うのはあくまで人間の中で「決めた結果」であって
実質、死んでこの世を去るまで本当のお別れではないと思うんです。
 人は生きる上で、多かれ少なかれ、故意であれそうでないにしろ何かしらの罪を
背負って生きていきます。悪い行いをせずに生きていける人間なんて存在しないからです。
子供の頃にアリ一匹さえ殺した事がない人間は多分、いないでしょう。
 たとえ、人になにかされて傷つけられても、それは結構自分が過去にした行為から
繋がるものだったりで、結局人と人が仲違いを起こす場合に、悪いのはそれなりに
お互いだったりもします。

だから、何か問題があっても、それには意味があって
「全てを受け入れた上で、乗り越えよう」ってそれが去年失恋など、色々あった人間関係の
中で俺が定めた誓いです。今でも、それは頭においています。
 
 人との間で何かあっても、その人の幸先を思うなら、見守って。
いつか、そして、いつでも力になりたいなと。せっかく縁あって知り合えた人々ですから。
受け入れると言うのは難しいですね・・・自分にとって都合の悪い事とか、見て見ぬ振りできません。
 でも、JUNEは人の気持ちを知るべき時期に一人で絵ばかり描いてきて、そういうのから
背を向けてきたので、これも勉強だよな、と思って最近は生きているんです。
 周囲の人間を大切にしてれば、きっと笑顔もたくさん見られるし、自分も味わえるはず。
愛されたくば、愛せよ。裏切られたくなければ裏切るべからず。
 人はどうか分かりません。でも、自分は可能な限り頑張っていこうと思います。



絵を描きました。ゾンビマニアの先輩の誕生日に、初挑戦のゾンビ絵(笑。
for CHIeMI
アメコミ調を意識。でもまんまだと日本人には濃すぎるので、真ん中の
レディだけは、日本人でも可愛いと思って貰えるくらいにアレンジはしました。
頑張ったのは、地味な存在感を放つモーテルの看板。もう少し月は何とかなったかな;。

2 0 1 2

明けましておめでとう御座います!JUNEです!生きてます!(毎度お馴染みの生存報告
 
もうしばらく日記更新が一ヶ月に1,2回って割合になってきたので新年くらいは早めに
挨拶しようと思ってたんですけど、気がついたら6日経ってました(笑。
みなさん、忘年会はしましたか? なぜ新年会でなく忘年会の話題かというとJUNEは
新年会はしてないからなんですけど。
親戚で集まったけど、それは除いて友人同士で集まる新年会はまだです。
そして今、飲んでも新年会というよりはただの飲み扱いなんだろうなあ。

去年は29日と大晦日にそれぞれ忘年会がありまして、行ってきました。
29日はなぜか秋葉原(笑。友人から誘われたんですが「場所は?」「アキバ」「またまた(笑」
って流れに(笑。そら、秋葉原にだって普通の居酒屋はありますけど、俺という人間に対しての
冗談だと一瞬邪推しちゃった!えへ!
ちなみに参加メンバーは最終的に9人でしたが男女比率が3:6という凄い事に。
元のメンバーは5人で、それぞれが一人友人を連れてくるという企画だったみたいで、女子陣は
JUNEは全員初対面でした。でもコンパではなかったので凄い気楽に楽しかったです。
20:30から24時近くまで店にいて、途中女子3人が仕事のため退陣、あとの6人でカラオケ入って
朝5時まで過ごして帰宅しました。

大晦日は、毎年恒例の中学時代の同級生との忘年会。
今年は大晦日だったせいか例年より4人も参加メンバーが少なくて残念だったのですが、
大晦日というメリットを利用して24時過ぎてから近くの神社で初詣。
そのまま、 ファミレスやらカラオケやらで時間を過ごして、翌朝の初日の出を拝んできました。
そして気がついたのは、多分俺は友人と初日の出を見たのはこれが初めてという事実です。
見た記憶がないんですよね・・・ディズニーランドでさえ20代前半で初めて行ったしな(汗。
少し雲が残り気味で危うかったですけど、初日の出自体は何とか見られて良かったです。


今年は年末から年明けにかけてイベントがそれなりにあって、参加できました。
それはなぜかというと仕事を去年の前半でやめていて、時間に余裕があったからなのです。
ずっとサービス業やってきたせいかここ数年、年末年始をゆっくり過ごしていなくて
今年は新年まですごく新鮮な気持ちで過ごした気がします。
あっという間に2012年はやってきましたけど、もう充電も十分かなと。
早く次の仕事見つけて、気持ちも充実させられたらいいなと思ってます。

ちなみに去年最後に描いた絵、テニスの王子様より木手永四郎。
kite.jpg
今年も、ごゆるりとよろしくお願い申し上げます!!

才能の真偽

16

最近は若者のうつ病や精神的ストレスによる病、いわゆる「現代病」と
呼ばれる症状が流行っているらしい。千年に一度の大不況と呼ばれる時代に、
この大日本帝國の未来を背負う大人は、自分でも気がつかない内に内面から病に
蝕まれているのかもしれない。
 『週刊シャッター』の専属記者である宮下亜紀も、そんな時代の犠牲者として
仕事に毎日を追われていた。朝、外回り前に週刊シャッター編集部にて、上司兼
編集長の瀬呂崎兼仁に訊いた時を思い出す。

「私達が生まれてきた意味って何なんですかね」
「そんなものはない」
ライターが提出した記事の校正をしながら声色一つ変えず瀬呂崎は言い捨てる。
所々に白髪が混じった、耳が隠れる位に伸びた髪を左手で額から掻きあげると、
軽く一息吐き出して、言った。
「中学生みてえな事いきなり言い出したと思えば。宮下お前、今の仕事に不満
感じてるのか。辛いのか。逃げ出したいのか」
図星を突かれて、しかし立場上そんな事を認める訳にもいかない亜紀はそのまま
押し黙った。瀬呂崎は、机から立ち上がり机の上で俯く亜紀の肩を、ぽん、と軽く
叩くと、歌うように、言った。
「ざまぁみろ、若者。お前らは若さという罪に苦しんで毎日足掻いていればいいんだ」
 反射的に顔を上げて瀬呂崎を見る亜紀。
「酷い事言いますね」
 その反応を楽しんでいるのか、くははと口から声を漏らすと宮下を融通の
聞かない
子供をあやすような目で見て話を続けた。
「年寄りは若者が嫌いなんだよ。特に目障りなのは学生どもだな。
あいつら根拠もなく『自分たちには怖いものはない』と思い込んでいやがる。
若いってのはいいよなあ。ある程度の責任から逃げても仕方ない、で
済まされるからな。年取ってみろ、首から「責任」って書いた札を
下げなきゃならねえ。部下のケツを拭く役に徹さなきゃならなくなる。
ま、中にはケツ拭きさえも逃げる花畑野郎もいるがな」
瀬呂崎が自分に何が言いたいのか理解出来なかった亜紀は、少し感情的に声を荒げた。
「じゃあ、なんですか。私が仕事をがむしゃらに突っ走って大失敗しても
編集長がその責任取ってくれるって事ですよね」
 一瞬、舌打ちをした瀬呂崎は亜紀の背中を強く叩いた。ヤバい、言い過ぎた。
ごめんなさい編集長、と謝ろうとした亜紀に発言権を譲らず瀬呂崎は言う。
「やることやらねえで偉そうな事言ってくれるじゃねえか、お嬢さんよ。
尻拭い?当たり前だろ馬鹿野郎が。俺はその為にこの机に座ってるんだぜ」
 上司相手に物を言いすぎた、と亜紀も思った。やってしまったと俯き、行き場の
無い気持ちを誤魔化すように右手で何度も髪をいじってしまう。顔を上げて、
瀬呂崎の姿を視界に入れるのを拒んでしまう。編集部内にはこつんこつんと、
瀬呂崎の靴音が響いてゆき、すぐに体重を預けた椅子の、金属部分が刺激された音が
耳に届いた。
ふぅっと、溜息のような息遣いが聞こえた。
「じゃあ逆に聞くが宮下。お前は人生が何を意味すると思ってるんだ」
 人生と、いきなりのスケールの大きい話を振られ、亜紀はやはり口をつぐんで
しまう。
 ふと、小学生の頃を思い出す。ぴかぴかの、という表現が一番正しいであろう
小学1年生。自分の体では支えられないのではないかという不安さえ感じさせた
赤いランドセルにこれから始まる学校生活に対しての夢や希望を、全て
詰め込んでいたあの時期。
 あの頃の自分の将来の夢はなんだっただろうか。あの頃の夢は、ああ、確かそう、
ケーキ屋だ。お菓子屋でもいいと思っていた。あの、煌めく様な夢や希望、不安の
裏に見えていた新鮮味の溢れた期待感を、今は持っているだろうか。今、常に
抱いてる思いは、何だ。
 過去を思い出し、今の自分の立場を再確認し、一気に落ち込んだ亜紀は、目の端を
じんわりと涙で湿らせた。
そんな亜紀に反し、亜紀の横で、瀬呂崎は噴き出して、言う。
「わかるわけねえだろ。そもそも人生に意味なんてねえんだよ」わはは、と 瀬呂崎は
思い切り笑い出した。煙草を吸い始めたらしく、吐き出した息と一緒に亜紀の周囲を、
あまり好ましくない臭いが、ざらっと覆った。「人間の悪い癖だ。何かにつけて、
物事に意味を見出そうとするのは。そんなのは、こじつけだ。だろ?
神様に聞いてみろ。そんなに深い事考えて、俺らを作り出したつもりはねえって、
首をぶんぶん横に振るだろうよ」
「じゃあ、意味の無い人生を何故私たちは生きていかなきゃならないんですか」
「生まれちまったからだろうが。アダムとイヴ以外の人間は、人の親によって
生み出されたもんなんだ、神様も責任は持ってくれねえんだろうなぁ」
 本当に、夢も希望も無い事をさらっと言いのけるな、この上司は、と亜紀は肩を
がくりと下ろし俯く。自分の足の間から先に床が見えた。俯いた頭のせいで編集部
内の照明が十分に届いておらず床は灰色の冷たい影に覆われている。
最近ワックスがけが行われたばかりだからか、艶のある光沢を持って周囲の物を
映しており、よく見ると灰色の奥深くに薄く自分の顔が反射している。
 そのまま、灰色の沼に飲み込まれていくような気分になった。
「人生ってよ、大事なのは死ぬまでの過程だと思わねえか」
 いきなり、先程瀬呂崎が言った事を補佐するような事を言い出したものだから、
え、と亜紀は声の方を向いた。瀬呂崎は口に煙草をくわえて両手を頭の後ろへ組み、
天井を見上げていた。
「人間は生きてる内に、特に大人になってからそりゃもう色んな事が起きる。
どん底を味わったかと思えば、歩いていく先に更に深い底が見える、なんてのも
ザラだ。その死ぬまでに体験する、色々な出来事をこなしていくのが、
人生ってもんなんじゃねえのか」
「アクシデントをこなす?問題だらけが人生って事ですか?それ生きてて
楽しいんですか」
「何も、起こらねぇ人生ってのが面白いと思うのか」
煙草を灰皿に擦り付け、言うと瀬呂崎は片眉を上げた。亜紀を見て、続ける。
「いいか、宮下。今、お前の人生が気にいらねえなら、それはお前が何とかする
しかねえんだよ。だろ。じゃあ、ひとつ質問だ。世界を変えるのはなんだと思う」
 世界を変える? そんな事、ちっぽけな凡人一人が出来る事ではないではないか。そう亜紀は思った。
「世界を変えるのは、いつだって権力を握った一部の人間ですよ」溜息混じりに、答える。
 あのなあ、本当にお前は何も知らねえのな、と呟き、頭を掻く。瀬呂崎は椅子から
腰を上げ、体の正面に窓を据え、そして手を掛けた。煙草の臭いが、開いた窓数センチの
隙間から逃げ、代わりに冷たく新鮮な空気が室内に飛び込むのを感じた。編集部が
あるのはビルの四階で、窓からもオフィスビルが軒並み並んでいるのが確認できた。
太陽が反射し、ちょうど向かいのビルの窓ガラスから強い光が差し込んだ。
 反射的に亜紀は眉をしかめる。窓から入る太陽の光で照らされ、実際には四十代
後半の瀬呂崎兼仁は、一瞬だが二十代位の、希望を胸に秘めた新入社員のような
顔つきに見えた。
そして歯を見せ、言い放つ。
「世界を変えるのは想像力だよ、宮下」
「想像力」
「ああ、想像力だ。例えばだ。人間はよ、昔は空なんか飛べっこないって思ってた
らしい。なぜかって?てめえの体をよーくみてみろ。翼がねえだろが」亜紀の方を
向きながら、右手親指を立てて背中を指差す。
「でも、飛べた。ライト兄弟って奴らがその無理を可能にしちまったんだ。わかるか?
ライト兄弟だ。飛行機を考えた外人のよ」
「馬鹿にしないで下さい、それぐらい知ってます」瀬呂崎が話し終わる前に亜紀は口を挟んだ。
瀬呂崎はへえ、と相槌を打つと、腕を組んで窓の外に目を向け、続ける。
「ライト兄弟はな、想像したんだよ。人間が空を飛ぶ未来を想像した。周囲の
人間が笑って指を差してくる中、それでも想像するのをやめなかったんだな」窓の
先にある空に、群れで風を切る鳩が見えた。自在に大気を縫う様に空中を舞う鳩は、
人間より格段自由に思えた。「だから世界は変わった。ヒトは鳥になれた」
「珍しいですね、編集長が夢のあるような事を言うなんて」本気で思い、亜紀は
口に出してしまう。
「馬鹿野郎が。夢は諦めなければ叶う、なんて話をしてるわけじゃねえんだよ俺は。
そんな無責任な説教は学校の先生にでも任せときゃいい」
 いくら努力した所で、叶わない夢もある。というより叶わない夢の方が圧倒的に
多い。これを、将来一番大事な時期に、よりによって大人は「無理だ」とは決して
言わないのだ。子供の持つ無駄に壮大な夢を肯定して走らせて、盲目的に夢を追い
現実を忘れたまま年を取った人間は、突き放す。そのタイミングは
大抵、その人間が人生のがけっぷちに立った時、だ。
それが亜紀の思う社会であり、大人だった。
学校の教師でさえもその部分に該当する人間は多いのではないか、と感じていた。
 だから、瀬呂崎の言ってる事は正論のように亜紀は思った。でも、ならば、と
次の瞬間には疑問も、沸いた。
その疑問を口にする前に、やはり瀬呂崎は亜紀に発言権を与える間もなく、言う。
「例えば、すげえ冴えない面の男が居たとするだろ」
「え」
「会社に、そりゃもう美人の新入社員がやってきたんだ。もちろん、自分以外の
男共は色めき立つ訳だ。誰もが、その女を自分のパートナーにしたいと、会社に
居る男はこぞって奪い合い始める。そこにはもちろん、男前で女には
不自由しなさそうな男もいる。
すげえ冴えない男は、もう今まで自分が歩んできた人生経験で、自分が冴えない、
なんてことは自覚していたからその新入社員を良い女だなと憧れの目で見ることは
あっても、高嶺の花として見るだけで特別な意識をしていなかった」
「なるほど」話に関連性を見受けられないながらも亜紀は、とりあえず相槌を打つ。
「そして、冴えない男は数ヵ月後にその美人社員と交際を始めた」
「な」いきなり、脈絡も無く結末を迎えたその話に、亜紀は目を丸くして抗議した。「展開が早すぎます」
 皆まで言うな、とでも言う様な、そうなるよな、とでも言いたそうな顔で腹を
抱えて瀬呂崎は笑う。
「つまりだ。想像力が、冴えない男の世界を変えちまったんだよ。男はよ、不器用
ではあるが優しかったんだ。優しさって言うのは、想像力だろ。相手が、
今どうしたら喜んでくれるだろう。自分がもし相手の立場だったら、何をされたら
助かるか。その想像を男は周囲の男より自然に出来たんだ。マメに相手を気遣う力が
あった。本当に大事なものは、きっと面なんかじゃねえんだろうな」
 想像力が世界を変える。
瀬呂崎が今、目の前で例にした話は確かになんて事ない小さな寓話だが、
子供相手に大人が笑顔で言う「夢への激励」とは違い、現実味が感じられる話だな、
と亜紀は思った。
 何の才能のない自分でさえも、少し考える方向を変えれば目の前の堅く閉ざされた
扉の鍵が
見つかるんじゃないかという気さえ感じられた。想像力が、世界を変える。
変えられるのかも知れない。
しかし、目の前の、普段はからっきし尊敬できない大人である上司の言うことに
言い包められそうな現状に若干の反抗心を感じた亜紀は、素直に受け止められずに
反論してしまう。
「でも、その瀬呂崎さんが言った事も、こじつけに感じなくもないですけどね」亜紀は口を尖らせる。
「お前それは」瀬呂崎は、真っ直ぐ亜紀を指差し、片目を閉じた。「ロマンが足りねえな。夢持てよ若者」
「想像しろ。今、お前がやるべきことはなんなのか。人生は甘くねえんだ。俺たち
大人はよ、毎日問題が起こらない様に、前に進む為に、ある程度の芝居をして
生きてる様なもんだ。本音と建前を使い分ける。それだって、必要なのは
想像力だろ。いいか、もう一度言うぞ。今、お前がやるべきことはなんなのか。
お前の生きる意味は、お前が創造しちまえばいいんだよ。
想像して創造しろ、ってな。今の不満がある世界の中で、その世界を変える為の
想像をしろ」
 ソウゾウしてソウゾウするという言葉の韻踏みが、自分の中でツボに入ったのか、
瀬呂崎は「ソウゾウしてソウゾウ」と何度も呟き、その度噴き出した。
話を聞いて、自分の中のわだかまりが不思議と消えた亜紀は、今までろくでもない
大人の代表として見ていた瀬呂崎を、尊敬出来る大人として少しだけ、見直そう
と思った。
「少し、頑張ってみようって気になってきちゃいました」
 そう言うと、亜紀は机を開け、すぐ手前に入った自分の手帳を手に取った。
今日の予定を確認し始める。
スケジュールの今日の欄には「病院訪問、矢追孝文に会う」と書いてある。市村の
教えてくれた情報によると霧宮光修の担当編集だった矢追は現在、都内の病院に
入院中で、精神科でカウンセリングを受けているらしい。
 その矢追に接触、霧宮のことを何とか聞き出すのが今日の亜紀の、やるべきこと、だ。
「よし。じゃあソウゾウしてソウゾウ初心者のお前に、今やるべきことは何か、
考えてやろうか」
 窓を背にして、瀬呂崎は自分のデスクに両腕をついて前屈みになる。器用に
いやらしく口元を歪めて、言った。
「キャバクラの姉ちゃんになったつもりで、上司に媚売ってみるとかどうだ」
 私の世界に、尊敬出来る大人なんてやっぱり居なかった。
亜紀は、想像して落胆した。

 亜紀がタクシーに乗って移動するのは、実に久しぶりだった。
ホームページ内のマップを参照する限りでは、そこまで分かりづらい所に目的の
場所があるわけではなさそうだったのだが、亜紀は自分でも自分の方向音痴ぶりには
絶大な自信を持っていた為、せっかく出たやる気を損なわない為に、そして仕事を
円滑に進める為に、時間と労力を珍しく金で買ったのだ。
 適当な道路わきに立ち、右手を上げてみる。すると横を通る車道を「空」と
文字が表示された黒い車が速度を落として走って来るのが見えた。上げたその右手に
吸い寄せられるように自分に近づいて、自動でドアを開ける車を見て、少しだけ
誇らしげな気分になった。
仕事の為にタクシーを使うなんて、自分も大人になったものだ、と小鼻を広げる。
 タクシーに乗り込むと、運転席に居る運転手が「どちらへ行きましょう」と尋ね
てきたので、目的地を告げて、亜紀は窓越しに流れる景色を眺めた。
 東京、新宿を走る無数の車は、その一台一台が大きな目的を抱えているような
重々しさと、それに矛盾して縦横無尽に広がる迷路のような道路を、迷う事無く
進むスマートさを兼ね備えていた。
 同じ位の速度で走っているにも関わらず、自分の乗るタクシーを次々追い抜いて
いくように亜紀は錯覚する。一刻の時間の無駄も許さないといった面持ちの東京と
いう街で、憶する事無く車を運転する人々を、亜紀は違う世界の生き物として
いつも傍から眺めている気分だった。窓の外を残像を残しながら流れていく車を、
何も考えずにぼうっと見ていると、人生というのは東京の道路みたいだなと、
思いを巡らせる。
道路を走る車の、さらに後ろには違う車が、また次も他の車が続いており、決して
後退はさせてくれない。
 前へ進むしかないという雰囲気と事実が運転手を急かすのだ。
物は言い様なのだろうな、と亜紀は考える。前へ進むしかない、のではなく前へ
進めば良いと考えを変えていけば、その先には有意義な何かが自分を待ち構えて
いるかもしれない。
想像して創造するのだ。想像力で世界は変わる。
 左手にチェーン店のファミリーレストランが現れた。マップの目印として、
事前に看板を確認していた亜紀は、景色を眺めるのをやめ、運転手の前のフロント
ガラスに目をやる。目的地らしい大きな灰色の建物が見えた。
 信号を大きく左折すると、タクシーは駐車場の方へ進む。駐車場の入り口は
遠目から見ても分かる程明らかに他の車の出入りで混んでいた為、タクシープール
付近で亜紀は車から降ろしてもらった。
 新宿の中でもひときわ大きい、東京医療大学病院に亜紀は着いた。
この大学病院の中の精神科に亜紀は用があった。「週刊文衆」の市村に、
霧宮光修の元担当だった矢追孝文がこの病院に入院している、と聞いたのだった。
 亜紀の右腕にあるアナログの腕時計は、午前11時に差し掛かる頃を指していた。

 そんな時間にも関わらず、病院内のロビーは無数の人間の行き交いで忙しなかった。
病院という場所柄か、余計な声は少ないように感じる。つんとした、あの病院の
持つ独特の匂いがその場所に存在する人々を理由もなく緊張させているのだろう。
受付に並ぶ人、黄色い紙袋を抱え足早に歩いていく看護師、人と付き添ってエレベーター
から出てくる車椅子の老人など、人が密集し、それぞれの目的の為に動いている。
 カウンターに目をやった。人が大人数並んでいるのが見えるので、自力で精神科を
探す事を亜紀は決心する。
 案内板を見つけて、その前に立った。どうやら目的の精神科は、このロビーから
少し離れた場所にあるらしい。案内板から振り返った先に見える、長い廊下に
向かって亜紀は歩き出した。
 精神科との連絡通路とでも言うような廊下には、公衆電話やら飲料の自動販売機が
一定の距離ごとに設置されている。その向かい、亜紀から見て左は、窓があった。
外はこの病院の中とはうって変わって、車の移動で騒々しそうだった。
 進んでいくと目先、2メートルほどの所に非常口らしき扉が見える。このまま、
進むと精神科には着かないと察し、手前のT字路を右折した。
 すると、右奥に見える飲料の自動販売機の影から、顔が半分こちらを向いてはみ
出しているのを見て亜紀は小さな声を上げ、その場で凍りついた。動きを止める。
「おねえちゃん、見ない顔」
自販機の横から覗くその顔は、亜紀の腰よりやや低い位置にあった。どうやら
この病院の、患者の子供らしいと判断し、少し亜紀は警戒心を和らげた。
恐る恐る声を掛ける。
「ぼく、そんな所で何してるの?」
相手の目線に近づけるべく、少し前屈みになる。
「びょういんのみまわり。怖い人とか悪い人がいたら、こまるから」
 なるほど、警備員ごっこみたいなものかと亜紀は思い、それならばと笑顔を
作って話を続ける。
「ねぇ、警備員さん。聞きたい事があるんだけど」
この病院の精神科ってこの先にあるのかな、と聞こうとした矢先、自販機の陰に
隠れた人物の頭は自販機を離れ、亜紀の目の前に現れた。亜紀の視線はその人物の
動きに合わせて激しく、天を見上げる事となる。
 目の前に現れたその男は、子供というにはあまりに背丈のある人間、つまり
れっきとした大人だったからだ。
亜紀は言葉を失った。自販機の後ろに隠れてたのは子供では無く、腰を下ろした
大人の男だったのだ。
「無理、です!本官は、ここを見回るという仕事があるのです」
 そう叫んだ男は、指を揃えた右手を額に当てて敬礼の真似事をすると、お辞儀を
して亜紀が歩いてきた方向へと左右に揺れながら歩いていった。
「びっくりしたー。お、大人だった。しかも警備員じゃなくて警官ごっこだったんだ」
 言動を見る限り、内面が上手に成長できなかった大人だろうか。多分、彼も
精神科の患者の一人だろう。
 亜紀は、いきなり鼓動の勢いを増した胸を撫で下ろすと、安堵のため息を吐いた。
ああいった患者を多く、抱える病棟はとても大変だろうな、とその先の「取材」の
大変さも想像し、気分が一層重くなる。
 気分を入れ替えよう、と亜紀は思った。
想像力が世界を変える。よし、やってみよう、と気合を入れてこのまま足を進めた。
先にあるはずの「精神科」の受付を目指し一歩を踏み出すと、その行動を一旦
牽制するかの様に、鞄の中にある携帯電話が震え始める。
せっかく入れた気合を削ぐように、着信を知らせる携帯を、忌々しさからか、
ゆっくり取り出して確認した。
画面に表示された着信相手の名前は、編集長の瀬呂崎だ。眉根を寄せる。
「もしもし、お疲れ様です」
「お、宮下!お疲れ」
「今、病院の中で、これから取材始める所なんですけど」タイミングの悪さに、
苛立ちの隠せない亜紀は早口で電話の向こうの上司に捲くし立てる。邪魔な電話を
してこないでよ、と続けたい位だった。
「そうか、でもいいぞ行かなくて」
「え」亜紀は驚きと、虚無感のあまり右手の携帯電話を床に落としそうになる。
必死で体勢を立て直し、仕事を続けるな、という上司にその真意を確認する。「どういうことですか」
「あのな、簡単に言えば、優先順位が変わったんだ。お前はこれからすぐ埼玉に行け」
 埼玉、現在は11時30分を過ぎた所で電車なら鈍行で行っても余裕な時間では
あったが、それにしても突然の方針変更の指示にやはり納得が出来なかった。
取材のために作ったこの時間をどうしてくれるのだ。
タクシーまで乗って時間を有効に使ったからこその、今があるのに。
「何で、埼玉なんですか」
「松本かのん大先生の取材だよ」
 松本かのん。映画化された恋愛小説「いとつなぎ」の作者であり、松本かのんも
また精神を病み闘病生活を送っている人間の一人だ。霧宮光修の担当だった矢追孝文の
抱えていた新人作家であり、霧宮光修自殺に多少でも関わりを持つのではないかと
推測された人物だった。松本かのんの実家は埼玉にある。
矢追孝文とは違って、彼女は自宅療養を続けているらしい。確かに、いずれ取材は
予定されてはいたのだが。瀬呂崎は、続けた。
「あっちも精神やられちまってるしな。今までアポは何度も取ってたがなかなか
取材の許可貰えずにいたろ。たった今だよ、今日なら取材に応じる、と先生の
親から許しを貰えた。だから、そっちは後回しだ。悪いが、埼玉に向かってくれや」
 亜紀は、いきなりの上司の指示に憤りを感じてはいたが、松本かのんは
女性作家であったし、同じ女性としての、作家に対する興味はあったので、意外にも
すんなりと気持ちを切り替える事ができた。
 精神科で入院しているという、矢追に取材する事への不安があったのも否め
なかった。さっきの患者といい、一筋縄ではいかなそうに思えたのだ。
松本も精神を病んでるという点は同じだが、そこは女性同士、なんとかなるだろう、
と根拠のない自信が、亜紀を後押しした。じゃあ頼むわ、と電話を切ろうとする
瀬呂崎を、ちょっと良いですか、と亜紀はさえぎった。
「何だよ」まだ、何かあるのかよと面倒そうに瀬呂崎は応じる。
「朝の、美人と付き合えた冴えない男の話ですけど」
 想像力で世界を変えた、あの偉大な冴えない男の話の続きを亜紀は想像した。
「もしかして、その冴えない男こそが瀬呂崎さんだったりするんじゃないですか」
 少しの間が空いた。どうなのよ、私の新説はどうなのよと携帯電話を持つ腕に少し力が入る。
「お前、失礼じゃねえか」はぁ?と甲高い声を上げ、瀬呂崎は反論した。「俺は冴えないかよ?」
「外見だけで言えば、悪くないとは思いますが」
 と言いよどむ亜紀に、だろ、と答える瀬呂崎。声色が少し弾んでいる。確かに、
外見こそ猫背気味ではあるが瀬呂崎自体の容姿は、顔や体に無駄な脂肪が無い
40代後半、歳相応な渋さを持った紳士にも見えなくない。
しかし、あ、自分で言っちゃうんだ?と、亜紀は口の端を歪めた。
「残念ながら俺の話じゃねえよ。俺の女房は腹が出てるしよ」
「でも、そこに気づけたなら美人の奥さんだって貰えそうじゃないですか」
 その外見に若さが加わるなら、尚更ではないか、とは言わなかった。
「そうかもなあ」受話器から聞こえる瀬呂崎の声が、心なしか遠くに感じる。「まぁ、あれだよな」
「なんですか」
「結婚しちまった後に、気づいても遅いっつうこったよ、若者」
瀬呂崎は、言うほどに若者を嫌っているとは思えない軽快さで、いやぁ、若い奴は
憎いよな本当にな、と笑いながら現状を嘆いた。

My new art works

Hi,I'm JUNE!! How's your day going??
I'm fine♪

This is new my art work! from DEATH NOTE.

for YUNA-P

LIGHT and RYUK's picture is out・・・

for YUNA1-5
Wow!!It's surprise trick art XD!!


Making:A
for YUNAfor YUNA-2for YUNA-3for YUNA-4

Making:B
for YUNA1-2for YUNA1-3for YUNA1-4for YUNA1-5

A+B
for YUNA-P






I feel so cool.

 クールというか、正直寒いレベル。最近寒くなってきましたね。
とりあえず生きてますよ。最近は出勤時に着ていく服が無くて困ってます。
英語の勉強のために今月始めに電子辞書を買ったので、そのせいで秋服に
手が出せなかったんですよね。
 いやぁ、電子辞書すげー。発音もきちんと出ますからね。
中学時代に辞書にアンダーライン引いちゃったあんな単語やこんな単語もネイティブの
女性による声できちんと教えてくれる訳です。ちなみにあんな単語やこんな単語に
アンダーラインというのは一般の男子中学生がしたであろう行為を例にしてるだけなので、
決してJUNEが中学時代にアンダーライン引いた訳ではないですよ。意味は調べたけどな!(ぉ

 でも、私の英語勉強法なんてたかが知れてて、買った本や先輩から借りた参考書を読んだり
好きな海内ドラマ(O.C.)を字幕音声で、必要以上に聞き耳を立てる程度で有効かどうかは
自信がありません。うーん、今のままでは来年中に海外だなんて難しいのかなと感じてしまう。
 一度だけ、夢の中に英語を話す人たちが出てきたのですが、記憶の限りではその一度だけです。
それでも先輩には「JUNEくん、それはすごいよ!意識の中に英語が入ってる!」って
驚かれたんですけど・・・。確かに今までそういう事は無かったし、今日はオフだったので
「猿の惑星:創世記」を観てきたのですが時間の関係で吹替え版を見たら、外人さんが
日本語話してる事に物凄い違和感を抱きました。人生初。
 以前よりは外国人が話す英語を聞き取る事には慣れてきたのかなと思います。
まだ瞬間的に意味を理解するのは長い台詞だと厳しいですが・・・。

金の虹

 前回の日記で公開した小説「ディス・イズ・マイプルーフ」より、主人公のエリシャが
幻の景色を記憶のままに描いた絵・・・という設定で描いた絵を公開します。
 いつもはイラストはコピックでしたが、今回は初めて風景画を描くということで
久しぶりに水彩に挑戦したのです。アクリル・ガッシュという不透明水彩絵の具。
彩色だけで1週間をかけた(A4サイズ)のですが、かけた時間は完成の出来に比例はしない
んだなと理解しました。初めての画材で私の経験不足だと思います。
 事情により、今この絵の原画は依頼主の手元にあるんですけれど実に焼き払って欲しい気持ちで
いっぱいです(汗。厚紙だから難しいかー。込めた気持ちよりも、結果だよなぁと・・・。
時間掛かるのでアクリル・ガッシュでの作画はしばらくやる気が起きないです(笑。
私の絵なんてこんなもんです(爆

短編創作小説「ディス・イズ・マイプルーフ 【下】」

 想像していた以上に、持ってきた傘が役に立たなくてエリシャは面を食らった。雨に濡れて、ピタピタと
生き物のように足に纏わりつくジーンズは、永久に体の一部となり離れることは無いんじゃないか、と思ったほどだ。
降り出した雨は、容赦なく街をもずぶ濡れにし、エリシャが自宅に着く頃にはパーカーの裾から足のつま先までの
水分含有率を5割は増やした。人間の体の水分が70%を上回った歴史的瞬間ね、と現在のみっともなく、
情けない自分の状況を見て、エリシャは自虐した。
世界初の、ボディとボトムスの一体型ウーマンヒーロー「ジーンズ・レディ」として、世界の女性達の
ファッションリーダーになるのも悪くないかも、と考えたが、スカートが履けないなんて女に生まれた特権が
半分無くなってしまうようなものじゃない、とすぐに考えを改める。 
 家に着くや否や、カレンは「あらあら」と微笑みながらすぐにタオルをエリシャに渡した。後ろに縛った
ポニーテールの半分は雨水が染み込み、画家が絵の具を含ませすぎた筆の穂先のようになっている。
髪全体をタオルで覆うと、軽く水気を切りドライヤーで乾かした。
「どうしよう、ママ」
「何かあったの?」
「誕生日だけど、特に何もすることが無いわ。外は雨で、外出する気にもならないし」
 とても残念そうな顔で嘆くエリシャに、うーん、と同調するようにカレンは顎を手で支えた。
「部屋でゆっくりしたら?例えば、読書とか。雨の降る音を聞きながら本を読むの、ママは好きよ」
 雨の降る音は、人間の気持ちを安らかにする効果がある。少なくとも、屋内にいる人間にとってはそうだ。
今の今まで外で雨に打たれてきたばかりのエリシャは、その部分で引っかかりを感じ、母の提案に素直に
賛同できなかった。これは結局私の負けみたいなものだ、と思った。大自然には勝てない。
 帰宅してさきほどまで張り詰めていた気持ちが緩んだからか、エリシャは少し心身ともに疲れを感じた。
だから、少し横になろう、という考えになるのにそう時間は掛からなかった。
そうね、いろいろあったからね、とカレンも頷く。
「夕方位まで休むから、起きたらすぐにママのタルトが食べたいな」と言うと、カレンは快く「OK」と言った。
 おやすみ、と伝えるとリビングを出て、階段を上がり2階の自室へ戻った。部屋に入ったエリシャの目に
すぐ飛び込んできたのは、写真立てに飾られたあの写真だった。部屋を見渡すと、大学に行く前に急いで
脱ぎ捨てたパジャマが床に見当たらない。部屋を片付けた際に、カレンが写真立てを直したらしかった。
 数時間前までの自分は、この写真に嫌悪しか感じていなかったのだな、と思うと不思議な気持ちになる。
ベッドに倒れ込み、左に視線を向けると、カーテンが半開きになった窓が見えた。通り雨に近い雨だったようで
外を自転車走ってきた時より、勢い自体は随分落ち着いたように見える。もう少しだけ、大学の中で
待っていればこんなに濡れずに帰ってこれたかもしれないな、と思い切なくなった。
「虹。金の虹。ロール・アルカンシエル」
 何も考えずに呟くと、エリシャは仰向けで寝た体勢のまま、左腕だけベッドの端から垂らし床に置いた鞄から
ノートを取り出す。金の虹についての文章とスケッチが書かれたページを開き、顔の上に掲げてみる。
ジョシュにも話したとおり、エリシャは普段の日常会話を英語で話しているため、フランス語で書かれた
文章は読みたくても読めない。唯一、見てわかるのは写真の代わりに描かれた、スケッチだけだ。
文章を書いたのとおそらく同じインクのボールペンで描かれているようだった。
 スケッチ自体は平面的な構成で、さらに線もかなりぶれていて、所々インクが擦れている。第三者から
見ると状況がとても判断しづらい。
「小学生が描いたような絵ね」と、噴き出しながらエリシャは自分の絵心を棚に上げて、言う。
下部に波打たれるように引かれた線は、見たとおり「水」を意味するものだろう。「海」か「川」を
表したものだ。その上に沿う様に横方向に引かれた1インチ位の幅がある線。虹、のつもりなのだろうか。
その割には多くの人間が虹を連想する時に思いつく、半円形の曲線表現はされていない。線が揺れてはいる。
 そのさらに上、ページやや左側に描かれた大きい丸。これは「太陽」だ。その周辺には申し訳程度に、
正直な感想をいえば、あまりに描きたいものを表現するのが思い通りに行かず、半ば自棄になって
ペンを走らせたような印象の細長いだ円が数個あり、これは「雲」だとわかる。
なぜ、”金の虹”だけ、写真が一枚も無いのか。
エリシャはそれだけが腑に落ちなかった。他はほとんど最低1枚は写真を残してくれているのに。
考えるほどに、自分の推測に自信がなくなっていく気がした。何故写真が無いか。それは、ジョシュの
言っていた通りにキノコの毒に侵されたヘンリーの見た幻覚であり、作り出した妄想だからではないのか。
 また、ヘンリーが金の虹を見たのが事実だったと仮定して、そこで彼が神と会う為に必要だった「何か」、
神と対面を果たす為に満たす必要があった「条件」とは何だったのだろうか。
答えの出ない疑問に、エリシャの意識は毒に侵されたヘンリーの様に、思考する意思を奪われていった。
 目の前に蒼く深い、透き通るような水面が見える。湖のようだ。さらに水面と同化しそうなくらいに澄んだ
青空が頭の上を覆っていた。このような綺麗な景色を、創造したのが全知全能の神と言うのなら、
彼に作る事ができない感動なんて無いのではないかとエリシャは、まぶたを薄めて深呼吸する。
はっと思い、周囲を見渡した。虹、虹はないか、と空を仰ぐがそれらしきものは見当たらない。
しかし、ある事に気づいた。エリシャは地面では無く水面に立っている。試しに右足で表面を蹴ってみた。
表面がえぐれて水しぶきが飛ぶ。前髪に水滴が絡んだ。そのまま二、三歩恐る恐る歩く。
ぴしゃり、と風呂場の濡れた床を踏んでる様な感触が足の裏に広がった。
自分は今湖の上を歩いてるのだ、と理解する。
神になったような気分だった。神ならきっと水面だって歩けるだろう。
 突然、目の前が光に満たされて、エリシャは目を瞬間的に瞑った。薄目で光の放たれている方を、なんとか
見てみると、光の中から人の影が歩いてくるのが見えた。逆光で顔立ちなどはわからない。
エリシャに気づいたその人は、右手をこちらに差し出すと、うなずいた。何故かエリシャはその人と逢いたい、と
本能的に強く思い、一歩を踏み出す。その瞬間轟音がけたたましく空間に響いて、エリシャは悲鳴を上げ体を
のけぞらせた。青く澄んでいた空は、燃え盛るような赤みを帯びていき、雷を作り出し、湖は所々に渦を作り、
波乱し始める。この世はもう終わりだ!と、自然の感情が剥き出しになっているようにさえ感じる。
それはまさに、地震などの天変地異が、一気に目の前に訪れたかのような光景だった。
 逃げなくては。エリシャは二歩目を踏むと、そのまま足は水面を捉えずに水の中に落ち、湖に体の自由を
奪われた。息ができない。沈んでいく中で、差しのべてた右手を膝に置き中腰で水面に立ったまま、
こちらを覗き込む人が見える。私も会えずに終わるのか、そう思った瞬間、
「エリシャ!」
目の前に、心配そうに顔を歪ませるカレンがいた。視界は自分の部屋の天井を映し出す。
「私、寝ちゃってたの?」今まで夢の中にいたことにようやく気づいて、顔を両手で覆った。「会えなかった」
「店に、ジョシュ先生からあなたに電話よ。何だか慌ててるみたい」
ジョシュの感情が移ったのか、カレンも若干慌てながら一階の方を指差して、エリシャを急かしている。
「どういうこと?」
復活祭は、明後日じゃない。そう疑問に思いつつ、目覚まし時計を確認する。午後4時47分を指している。
さっきまで見ていた夢の内容を頭で反芻しながら、寝ぼけなまこでふらふらと階段を下りた。
店のカウンターに設置されている電話機の前で、小さくあくびをする。「保留」のボタンを押して、
受話器の先にある世界に呼びかけた。
「どうしたんです?プレゼントなら、欲しい物考えておくので」エリシャはけらけら笑いながら、言った。
「そんな事はどうでもいいんだよ、エリシャ」
ジョシュは、確かに慌てていた。ただ事ではないらしい、と一瞬で悟り、同時に眠気は飛んでいった。
  

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短編創作小説「ディス・イズ・マイプルーフ 【上】」

私はこの人生に後悔など感じてはいない。
 様々な場所に行き、空気に触れ、足を踏み入れ、素晴らしい景色を見た。
 また、その数に比例して沢山の人達と出会い、語らい、そして笑ったのである。
 はっきりと、胸を張って言える。この世のどんな人間よりも唯一無二の経験を、
 誰もが理解する事ができないだろう視点で見据え、この世界で呼吸をしてきたと。
 ・・・・だが、もし、それでもこの世に後悔はないかと問われたら
 私はこう答えよう。
 後悔ではなく、「悔い」なら二つも作ってしまった。
 一つは私の人生という旅の中で、ついに「神」とだけは会う事が叶わなかった事だ。
 一体何が足りなかったのか、いつ終わるか分からないこの人生の中で、
 その「答え」だけは分からなかった事が非常に残念だ。
 神の歩くであろう道は、目の前に来ていたというのに。
---------------------------------冒険家 ヘンリー・アイゼンバーグ著 
「君へ贈る記録」より一部抜粋

**

 どこからともなく、果実感を纏った甘い香りが漂っている。その香りに、おはよう、と言われたかの様に
鼻の先を軽く小突かれた気がした。ぼんやりとだが、朝になったと彼女はようやく理解する。
 2011年4月22日、キリスト教でいう聖金曜日である今日はエリシャ・アイゼンバーグにとってまた別の意味でも
特別な一日だった。胸まで掛かってた羽毛布団をずらして上半身をベッドから離す。そのまま大きく伸びをし、
一呼吸つくとカーテンを一気に開いた。青空を期待してたのも虚しく、空は一面灰色の雲に覆われていて、
エリシャは興ざめするしかない。唇を尖らせて、眉間に皺を寄せる。
 ふと視線を左に移すと、ベッド脇に本棚があり、その上には一枚の写真が入った写真立てが
目に入った。エリシャはさらに顔を歪ませ、溜息を吐く。
「もう、ママってば」
 左足をベッドから下ろすとそのまま片足で立ち上がり、本棚上の写真立てを手前に伏せた。写真が見えなくなる。
一仕事終えた、という感じに2度うなずくと、そのまま体重を後ろに預けて、どすん、とベッドに腰を下ろした。
枕元にある丸みを帯びた赤い目覚まし時計を見る。午前9時34分を指していた。
 大人ってこんなものなのね、と思うと天井を仰いだ。「何も変わらないじゃない」と蛍光灯を見て呟く。

 甘い香りの正体をエリシャは分かっていた。寝起きで多少のふらつきを感じながら階段をつたい
下の階へ降りてゆく。一段、一段、と降りて行く度に、その香りは一層濃くなっていった。
「おはよう、エリシャ。早いのね、今日位ゆっくり寝ていてもいいのよ」
ドアを開けた先のキッチンで、エプロンに身を纏った母・カレンが穏やかな笑顔をこちらに向けた。
両腕の手首~二の腕位までが白い粉で覆われている。
「おはようママ!こんなに甘いお菓子の匂いがしたら、女の子として寝てられないわ。
 ねぇ、今日は何の日でしょう?」
「今日は大事な復活祭の前の聖金曜日ね」
「ええ、そうね!そうだけど、それだけなの?」
「あら、他に何があったかしら」
「ひどい」
欲しい言葉をくれないカレンに、エリシャは頬を膨らませる。その仕草のあまりの幼さにカレンは噴き出した。
「今日で20歳のレディがそんな顔したらいけないわね」カレンはウインクし、口元まで右手を上げると、
人差し指をチッチッと左右に揺らす。ママは意地悪だ、と呟きながらエリシャは顔を洗いに洗面台へ向かった。
 エリシャと母親であるカレンは、カナダ・オンタリオ州のあまり栄えてない場所にある住宅街で
豊かな生活とはいえないものの、力を合わせて二人で幸せに暮らしていた。
二人が住む木造二階建ての家の一階は、カレンが経営する洋菓子屋「SAY TRUE」になっている。
今日、4月22日は記念すべきエリシャの20歳の誕生日で、さらに偶然にも今年の聖金曜日と重なっていた。
 聖金曜日は、復活祭直前の金曜日を指す。
イエス・キリストが一度処刑で命を落としたにも関わらず3日後に生き返った日、キリストが人々に
「神」と認識された日を「復活祭」と呼び、キリスト教を信じる者たちは、神様の生き返った日、
言い方を変えれば「神が誕生した日」を祝福するのだ。
普段は大学に通いながら、商品の仕込み等カレンの仕事をエリシャは可能な限りで手伝っていたが、
「誕生日だしゆっくりしなさい」と今日はそれを免除されていた。朝から漂っていた甘い香りは、エリシャの
誕生日用の、カレンが準備していたタルトの材料だ。カレンのタルトがエリシャの大好物だった。
「エリシャ、ジョシュ先生が来たから店内に顔を出して頂戴!」
洗った顔をタオルで拭いている時にキッチンから、カレンの声が聞こえたので慌ててカウンターに
向かうと、エリシャに気づいた栗色の髪の中年の男が、片手で被ってた帽子を外し笑いかけた。
「おはよう、エリシャ。調子はどうだい?」
「おはようございます先生。曇ってるのが残念ですが、気分は良いですよ」
エリシャは首を傾げながら窓に目をやる。エリシャの視線に反応し、ジョシュと呼ばれたその男も
後ろを振り返り、窓の向こうに広がる空を眺めた。
「今にも、泣き出しそうな空だ」ジョシュは肩をすくめて、持ってきた自分の傘を指差した。
 エリシャの通う大学で、歴史や地理を専門で教える教授であるジョシュは「SAY TRUE」の常連だった。
フランス人であるジョシュにとって、カナダ人のカレンの作るミルクレープは本場のパティシエが作る
それに勝るとも劣らない程に格別らしく、週に1度は仕事終わり等に一切れ買いに来た。
「頼んでた物は出来上がってるかな」
「もちろん、ちょっと待ってもらえますか」
ママ、用意はできてる?とキッチン入り口を覆うカーテンを覗きながらエリシャが尋ねると、白い箱に入った
出来立てのミルクレープを持ってくるカレンの姿が現れた。
「お待たせしました、先生」カレンはミルクレープの入った箱を袋に入れてジョシュに手渡す。
「おはようカレンさん。ありがとう。これが無いと新入生を迎えられない」
いつもは小さい箱に入る大きさの一人分一切れのタルトを買っていくジョシュだが、今日は大学に行く前に
ホールで買った。毎年恒例だった。4月に入ってきた新入生でジョシュの講義を熱心に受ける生徒達に
ティータイムを設けてミルクレープを振舞うのだという。「糖分は脳に必要不可欠だからね」と笑った。
「先生、今日は何の日か知ってますか?」
にっこり、満面の笑みのエリシャにジョシュも満面の笑みで返す。
「聖金曜日だね」
「みんな、そればっかり」
「はは、誕生日だね?20歳おめでとうエリシャ」からかって申し訳ない、とジョシュは少し大げさに拍手しつつ笑う。
 つい先程、母親とも同じやりとりをしたエリシャは、やはり頬を膨らませてしまう。隣のカレンが、また
この子は、とでもいいたそうな目で見てくるので、すぐに顔を戻した。
「何かプレゼントを用意しておこう、好きな時間に大学へ来るといい」
 左腕の時計を確認すると、思いの外時間が過ぎていたらしい。おっといけない、じゃあ良い一日を、と
顔だけエリシャの方を向きながら、ジョシュは足早に店を出て行った。

 カレンは、冷蔵庫にエリシャのお祝いの為に準備したタルト生地をひとまず入れた。タルトは午後にでも
デザートとして出すのでまだ焼かない。そのまま朝食の準備に取り掛かる。「何か手伝う事は?」とエリシャが
言うので「じゃあパンをトースターにセットして、テーブルも拭いて貰おうかな」とカレンも答えた。
 ダイニングテーブルの上のトースターに食パンをセットすると、エリシャは濡れ布巾でそのままテーブルを拭く。
じゅうっとキッチンの方で何かを焼いてる音がし、その後に卵と一緒に肉肉しい匂いが漂う。ハムかベーコンだ。
椅子に腰掛けると、エリシャは窓に目を向けた。何度見ても、ジョシュの言うところの「今にも泣き出しそうな空」の
状態は変わる気配が無い。奮発して、朝食のデザートにハーゲンダッツでもあげるから機嫌直してくれないかな、
などと考えてみる。が、当然Mr.Skyは何も反応してくれない。そんなんじゃ女の子にモテないよ!と
エリシャは窓に向かって舌を出した。
 目の前に、カレンがグラスを置きミルクを注ぐと、次に、どうやら焼き上がったらしいスクランブルエッグと、
ベーコン、ポテトサラダが盛り付けられた皿を置いた。自分用の皿も置く。
 カレンの皿には目玉焼きとベーコン、ポテトサラダが盛られている。エリシャは目玉焼きが苦手だった。
少しして、トースターからパンが飛び出たのでそれをエリシャが皿に乗せ、自分とカレンの前にそっと置いた。
「さ、お祈りをしましょう」カレンも、全ての用意を終えるとエリシャの対面側の椅子に腰掛ける。
 カレン、エリシャ共に右手中指を、額、胸、左肩、右肩へと振り十字を切った。
 カレンに至っては「神よ、あなたの慈しみに感謝してこの食事を頂きます。ここに用意された物を祝福し、
私達の心と身体を支える糧として下さい」と実際に声に出した。
さらに十字を切る時に、「父と、子と、聖霊のみ名によって、アーメン」と神に祈りを捧げ、合掌する。
 本来、カトリック協会では聖金曜日は断食する事を習慣としているが、今年はカレンの誕生日と被る為、
アイゼンバーグ家では例外という形を取った。
 食事をしながら、ふと気づくとエリシャを少し寂しそうな目でカレンが見ていた。「なあに?ママ」
「あなたの20歳の誕生日、パパが生きてたらきっと喜んだろうなって思って」
「そうかな」意識してそっけなくトーストを齧りながらエリシャは言う。「パパが生きてたとして、今日この部屋で
3人揃って朝ごはん食べてるとは思えないけど」パンを歯で齧ったまま、手のひらを見せる様に両腕を肩まで上げた。
 エリシャの父親であり、カレンの夫であったヘンリー・アイゼンバーグは冒険家として、世界各国を旅する男だった。
1961年にフランスで生まれたヘンリーは、読書が趣味の勤勉な人間で、将来は学者になるという夢を抱きながら
生きていたが、様々な書物、文献に触れていく内に「もっと大きく広大な世界をこの目で見たい」という気持ちが
大きくなり、夢を現実にする為、25歳で大学をやめ、世界を股にかけるようになる。様々な土地、国を転々とした。
 後に、カナダでの旅の途中に出会ったカレンと28歳の時に結婚。翌々年、30歳の時、1991年4月にカレンとの間に
一人の女の子を授かる。それがエリシャである。
 冒険家という職業柄、ヘンリーはほとんど自宅にいる事は無かった。初めのうちは最低一ヶ月に一度は家に顔を出し、
娘の成長を確かめに来ていたが、旅がカナダから大きく離れた場所になると、それも叶わなくなっていった。
それ故にエリシャも父親に関しての記憶はかなり曖昧だった。顔もおぼろげにしか覚えてない位だ。
 顔を思い出す為のピースは、部屋の本棚の上にある写真立てに入った、まだ赤ん坊だった自分と一緒に
映った若かりし頃のヘンリーとの写真しか無かった。だから、エリシャは殆ど顔を見たことも無く、電話で
何度か話した位しか関わりを持てなかった父親、ヘンリーに良い印象を抱いてはいなかった。
嫌っていたと言う方が正しいかもしれない。
 ヘンリーはその後、旅の途中で事故に遭い、1999年に38歳の若さでこの世を去る事になる。エリシャが8歳の時だった。
「あなたがパパを良く思っていない原因はママにもあると思ってるの。ママは、夢に向かって真っ直ぐ進むパパをとても 
愛していたし、誇りに思っていたから。旅であった色々な出来事を目をキラキラさせながら私に話してくれるパパを
ママは応援したかった、見守りたかった。でも、冒険家なんて仕事は、私は我慢できても子供の貴女には、ね。
子が父親と会えない事がどれだけ辛かった事か、想像できなかった。そういう人を愛してしまったママにも責任があると、
ずっと思ってたわ。今日みたいなおめでたい日に言う話じゃないかもしれないけど、謝らせて。ごめんね、エリシャ」
「そんな」エリシャはフォークとナイフを、皿に置くと体を前のめりにし、悲しみに嘆くカレンに訴える。「ママは何も
悪くなんか無いわ!今日、この瞬間までずっと一緒にいてくれてるじゃない。毎年誕生日に私の為にタルトを焼いてくれて、
眠る時はキスしてくれて」目頭に熱いものが込み上げて来るのを感じたエリシャは精一杯平静を保とうと努めるが、
声はどんどん震えていく。「人はどんな夢があっても、結婚して守るべき人が出来たり、子供が出来た時点で自分の夢を
一旦捨て家族の為だけに生きていくものだと私は思ってる。人生と言う物語の”主人公”を自ら降りるの。パパはそれを
放棄したんでしょ。パパをこんなに愛してたママを、娘である私を放って、やりたいこと優先して。言えるものなら
本人に言ってあげたいわ!あなたは」
 そこまで言うと、エリシャは口をつぐんだ。目の前の母が、さっきの謝罪の時以上に、悲しそうな顔で
俯いているのにやっと気がついたからだ。
 そして、黙って椅子から立ち上がる。「ママ」感情に任せて言い過ぎてしまったのかもしれない、とエリシャは思い、
そのままその場から離れるカレンを呼び止めようとするが、ダイニングを出た後数分してカレンはすぐにまた
ダイニングに姿を現した。だが、変化があった。手に何やら少し分厚い紙袋を持っているのが見えた。
「ママ、それは何?」エリシャは重い空気と沈黙に耐えられず、率直な疑問を口にする。
「パパから、20歳の誕生日にあなたに渡してくれと頼まれていたの」
「え」
 目の前に差し出された紙袋にはここの住所と、ヘンリーの名前しか書かれておらず、エリシャは訝しげに恐る恐る紙袋を
受け取ると、すでに封が開いてるのを確認して腕を突っ込んだ。手ごたえを感じ中身を出すが、中身もブルーの包装紙で
包まれており、さらにリボンで留めてあった。触り心地から見ると本や冊子のような印象を受ける。心臓の鼓動が
早くなるのをエリシャは感じた。中身を知る事に対し、抵抗と恐れを覚えるが、それ以上に中に何が入ってるのか、
ヘンリーは自分に何を贈ったのか、興味がその恐れを上回った。包装紙を、上品さとは正反対の手つきで破いていく。
 中身は、やはり本、だった。ノートだ。表紙には何やら記述がされてるが、普段英語で会話するエリシャもカレンも、
文字を読む事が出来なかった。多分、フランス語だろうなとエリシャは思う。ヘンリーの母国語だったからだ。
 簡単に中を確認する。中身も表紙と同じ言語で書かれており、何枚も写真が貼ってあった。様々な景色や人物と
映るヘンリーを確認できたが、それ以上にエリシャは写真に写る、ある事柄に衝撃を受ける。
「ママ、ごめんちょっと外に出てきて良い?」
「ど、どうしたのエリシャ」カレンは、今まで見た事も無いエリシャの必死な表情に不安を露わにする。
「このノートの内容を、私は知らなくちゃいけない気がする」
 そう言うと、エリシャは凄い勢いで2階の自分の部屋へ駆け上がった。寝起きであまり纏まっているとは言えない
金髪の髪をゴムで一気にポニーテールに結び、パーカーとジーンズに着替え、バッグにヘンリーからの本を入れると、
帰ってきたらすぐ食べられるようにタルト焼いておいて、とだけカレンに伝え、家のドアを開けた。
 そうだ、天気が悪いんだった、と空模様を目にして思い出し、玄関に戻って赤い傘を抜き出す。そしてドアを飛び出し
自転車にまたがった。生暖かい風が、エリシャの体も気持ちも包んでいくようだった。

 **

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Appendix

プロフィール

JUNE

Author:JUNE
JUNE(ジューン、ジュン)
旧PN:十文字貴人
男 4月25日生まれ
血液型:A
好きな事:映画鑑賞、読書、落書き、英語勉強
人間は「人生」においては誰もが素人。だから、焦らず楽しもう!

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